第五話 2000年代|帰ってきた土地 ―エイサー将軍と琉球王―
戦争が終わっても、
沖縄の物語は終わらなかった。
返還された土地。
そこに生まれた新しい街。
時代が変わり、人々の暮らしも大きく変わった。
けれど――
沖縄で生きた人々の記憶まで、消えることはない。
今回は、
そんな「戦後のその後」を描く小さな物語です。
……ただし。
主人公たちが幽霊なので、
たぶん普通の戦後史にはなりません(笑)
そして舞台は、現代の那覇へ――
1987年。
真和志村。
かつて米軍に接収されていた土地が、
ようやく日本へ返還された。
夕暮れ。
返還された土地を見つめる男がいた。
元沖縄県知事、屋良。
その隣には――
白いかりゆし姿の幽霊。
バックナーである。
⸻
屋良
「……返ってきましたね」
バックナーは、しばらく黙って土地を見つめる。
バックナー
「長かったな」
屋良
「ええ」
バックナー
「俺がここに来た頃は……」
「ここが、誰かの故郷だということを」
「十分に考えられていなかったのかもしれない」
屋良は黙って頷く。
屋良
「あなたが何を考えていたかは、もういいんですよ」
バックナー
「……」
屋良
「大切なのは、今日ここが返ってきたことです」
バックナーは、ゆっくりと頷く。
「そうか」
少しだけ笑う。
バックナー
「なら……俺も」
「ここで少し肩の荷を下ろしていいか」
屋良
「ええ」
屋良が土地を見渡す。
「ここから、何か新しいものが始まるでしょう」
バックナーはその言葉を聞き、静かに笑った。
⸻
――そして、時代は進む。
かつて米軍施設が存在した土地には。
道路が整備され、
高層ビルが建ち、
ショッピングモールが建ち、
住宅が並び、
そして――
沖縄都市モノレールが走るようになった。
かつて「基地の土地」だった場所は、
人々が暮らし、買い物をし、働き、遊ぶ、
一つの街へと変わっていった。
その街の名は、那覇新都心。
⸻
2000年代。
首里城。
そこに、妙な集団がいた。
尚泰王。
尚典。
尚綾。
尚秀。
隆造。
全員、幽霊である。
⸻
尚泰王
「……隆造」
隆造
「はい」
尚泰王
「ここは……真和志村か?」
隆造
「はい」
尚泰王が目の前を見つめる。
そこには、高層ビル。
大型商業施設。
大量の自動車。
そして――
空を走るモノレール。
尚泰王
「…………」
尚典
「父上」
尚泰王
「なんだ」
尚典がモノレールを指差す。
尚典
「汽車が空を飛んでいます!!」
隆造
「汽車ではありません」
尚典
「では何ですか!?」
隆造
「モノレールです」
尚典
「もっと分かりません!!」
⸻
一方――
尚綾はショッピングモールの前で立ち止まっていた。
ガラス越しに並ぶ現代の服。
尚綾
「……隆造」
隆造
「はい」
尚綾
「あの服、素敵ね」
隆造
「そうですね」
尚綾
「買いましょう」
隆造
「……幽霊ですよ?」
尚綾
「だから?」
隆造
「お金がありません」
尚綾
「……」
隆造を見る。
隆造
「……」
尚綾
「なんとかしなさい」
隆造
「無理です」
そこへ尚典が駆けてくる。
尚典
「父上!姉上!あちらに洋服が――」
尚綾
「典」
尚典
「はい?」
尚綾
「あなたも選びなさい」
尚典
「私も!?」
隆造、ため息。
⸻
一方、尚秀。
店頭に置かれた沖縄観光のポスターを発見。
そこには、「ダイビング」の文字。
尚秀の目が輝く。
尚秀
「……海」
隆造が振り返る。
隆造
「尚秀様?」
尚秀
「隆造」
隆造
「はい」
尚秀
「これは何だ?」
隆造
「ダイビングですね」
尚秀
「海に潜るのか?」
隆造
「そうですね」
尚秀、満面の笑み。
尚秀
「行こう」
隆造
「幽霊ですよ?」
尚秀
「泳げるかもしれん」
隆造
「幽霊がダイビングするんですか!?」
さらに別のポスターを見る。
「沖縄美ら海水族館」
尚秀、完全に食いつく。
尚秀
「……これは?」
隆造
「水族館です」
尚秀
「魚が見られるのか」
隆造
「はい」
尚秀
「行こう」
隆造
「……今日は観光旅行なんですか?」
⸻
夕方。
首里城。
そこにバックナーが堂々と立つ。
そして――
なぜかエイサー衣装である。
尚泰王
「……誰だ?」
隆造が横から入る。
隆造
「エイサー将軍です」
尚典
「待て」
隆造を見る。
尚典
「何だ、その肩書きは」
隆造
「本人がそう呼ばれています」
尚典
「誰が決めた!?」
バックナーが胸を張る。
バックナー
「沖縄の伝統文化を守るために必要なのだ」
尚典
「絶対に違う!!」
尚綾がバックナーを見る。
尚綾
「あなた……」
バックナー
「はい?」
尚綾
「その格好、似合っていますね」
バックナー
「ありがとう」
隆造
「褒めるんですか……」
⸻
尚泰王がバックナーの前へ歩み寄る。
二人はしばらく無言で見つめ合う。
尚泰王
「そなたは……沖縄を見てきた者か」
バックナーは頷く。
バックナー
「はい」
尚泰王
「ならば、今の沖縄をどう思う?」
バックナーは首里城から那覇の街を眺める。
モノレールが走っている。
人々が歩いている。
店には明かりが灯っている。
子供たちの笑い声が聞こえる。
バックナー
「……変わりましたね」
尚泰王
「そうだな」
少し間。
バックナー
「しかし――」
バックナーが微笑む。
バックナー
「人々が笑っているところは、昔も今も変わらない」
尚泰王も笑う。
尚泰王
「それなら、良い国になったのだな」
隆造が二人を見つめる。
隆造
「……ええ」
⸻
突然、太鼓の音が聞こえる。
尚秀
「……祭りか?」
バックナーが笑う。
バックナー
「そうだ」
そして踊り始める。
尚典
「将軍!?」
バックナー、エイサーを踊る。
尚綾
「楽しそうね」
尚典
「……なぜ米軍の司令官がエイサーを?」
尚泰王
「典」
尚典
「父上?」
尚泰王
「我々も踊ろう」
尚典
「え?」
尚泰王が立ち上がる。
隆造も続く。
尚綾まで笑いながら加わる。
尚秀は海を見ながら踊っている。
そして――
バックナー
「エイサー!!」
尚泰王
「エイサー!!」
尚典
「父上まで!?」
首里城の夜。
琉球王国の王と、その時代を終えた者。
沖縄戦を戦った者。
そして、その後の沖縄を生きた者。
本来なら交わるはずのなかった者たちが、
幽霊になった今――
同じ場所で笑っていた。
⸻
沖縄は、時代とともに姿を変えていった。
王国から県へ。
戦場から基地へ。
そして、街へ。
失われた土地もあった。
戻ってきた土地もあった。
それでも――
人々は、そこに暮らし続けた。
そして今日も、
首里城のどこかでは――
「エイサー将軍」と「琉球王」が踊っている。
……たぶん。
⸻
(つづく)




