第二話 1972年|美咲と隆司の新婚生活
本編、完結しました!
……ということで、今月は少し寄り道。
『Bingata Legacy』本編で描き切れなかった、
仲村家の小話や迷シーンをお届けします(笑)
今回は――
1972年、美咲と隆司の新婚生活。
沖縄返還の激動の時代。
紅型工房を営む若夫婦の、平和な日常。
……のはずでした。
健一と彩花が見守る中、
新婚夫婦の距離感がおかしい(笑)
さらに、そこへ現れる「とんでもないお客様」。
本編では描けなかった、
美咲と隆司の新婚時代をどうぞ!
1972年。
復帰したばかりの沖縄。
仲村工房。
朝。
窓から差し込む光。
紅型の布が並ぶ。
美咲は、染料を確認している。
隆司は、作業台で型紙を整理している。
二人とも黙々と仕事をしている。
――ただし、距離が近い。
美咲が布を広げる。
美咲
「隆司さん、こっち持って」
隆司
「はい」
二人で布を持つ。
美咲
「もう少し右」
隆司
「ここ?」
美咲
「うん」
隆司
「……近いな」
美咲
「何が?」
隆司
「いや……」
美咲
「?」
隆司
「何でもない」
美咲が笑う。
その様子を――
工房の奥から健一と彩花が見ていた。
⸻
健一
「……なあ」
彩花
「何?」
健一
「お前ら」
美咲と隆司を見る。
健一
「結婚しろよ」
美咲
「え?」
隆司
「……」
彩花
「そうよ」
彩花
「朝からずっと一緒に仕事して」
「一緒にご飯食べて」
「一緒に帰って」
「もう夫婦みたいじゃない」
隆司
「……」
美咲
「……」
二人が顔を見合わせる。
数秒。
美咲
「あ」
隆司
「あ」
健一
「?」
彩花
「?」
美咲
「……私たち」
隆司
「結婚してた」
健一
「…………」
彩花
「…………」
健一
「籍入れたんだった!!」
彩花
「そうだった!!」
全員爆笑。
隆司
「お前ら忘れるなよ!」
健一
「いや、あまりにも自然だったから!」
彩花
「新婚感がなさすぎるのよ!」
美咲
「新婚なんだけど……」
隆司
「俺もそう思う」
美咲
「……」
隆司
「……」
二人が少し照れる。
健一
「今さら照れるな!!」
⸻
そこへ。
工房の入口から英語の声。
???
「すみません」
全員が振り返る。
外国人の男性が立っていた。
旅行鞄。
穏やかな表情。
男性
「紅型を見せてもらえますか?」
美咲
「はい。どうぞ」
男性が工房に入る。
彩花(小声)
「また外国のお客さん?」
健一
「最近多いな」
隆司
「復帰したばかりだからな」
男性は紅型を眺める。
男性
「美しいですね」
美咲
「ありがとうございます」
男性
「実はこれから中国とベトナムへ行く予定なんです」
隆司の手が止まる。
隆司
「……」
男性
「その前に沖縄へ寄りました」
隆司
「中国と……ベトナム?」
男性
「はい」
隆司
「……」
「危ない橋を渡るな〜」
男性
「ははは」
男性は苦笑する。
男性
「そうですね」
少し間。
男性
「でも、ナチスから逃げる方が大変でしたから」
全員
「…………」
隆司
「それは……」
「確かに大変ですね」
男性
「ええ」
さらっと答える。
美咲だけは、普通に商品を見せている。
⸻
美咲
「中国やベトナムへ行かれるなら」
男性
「はい」
美咲
「これがおすすめです」
布を広げる。
小さな紅型の布袋。
美咲
「地図やパスポートを入れられます」
さらに別の商品。
美咲
「こちらは荷物の目印に」
男性
「なるほど」
美咲
「海外では荷物を間違えられやすいので」
男性
「これは便利ですね」
男性は商品を購入する。
隆司
「……美咲」
美咲
「何?」
隆司
「商売上手になったな」
美咲
「新婚生活のために頑張ってます」
隆司
「……」
健一
「お前ら本当に新婚だったんだな」
隆司
「だからそうだって!」
⸻
男性は代金を支払う。
そして帰り際。
男性
「ああ、そうだ」
美咲
「?」
男性が名刺を取り出す。
男性
「もし今後、ワシントンへ行かれることがあれば」
「私に連絡してください」
美咲
「ワシントン?」
男性
「ホワイトハウスにおりますので」
全員
「…………」
隆司
「……ホワイトハウス?」
男性
「はい」
美咲
「ありがとうございます」
男性
「では」
男性は笑顔で工房を出ていく。
扉が閉まる。
沈黙。
健一
「……何だったんだ?」
彩花
「さあ……」
隆司
「美咲」
美咲
「何?」
隆司
「お前、去年……」
美咲
「?」
隆司
「大統領との面会で、色々あっただろ」
美咲
「……」
美咲が苦笑する。
美咲
「そうね」
「去年は……ちょっと迷惑かけちゃったね」
隆司
「ちょっと?」
美咲
「……ごめんなさい」
隆司
「まあいいけど」
美咲
「でも、今回は普通のお客さんだったよ」
隆司
「そうだな」
隆司が名刺を見る。
そして。
固まる。
隆司
「…………」
美咲
「どうしたの?」
隆司
「いや」
名刺をもう一度見る。
隆司
「この人……」
健一
「?」
隆司
「……」
彩花
「?」
隆司
「ヘンリー・キッシンジャー」
全員
「…………」
美咲
「……え?」
健一
「……誰?」
隆司
「国家安全保障担当大統領補佐官」
「ニクソン大統領の右腕だ」
全員
「…………」
美咲
「普通のお客さんじゃなかった」
隆司
「だから言っただろ」
健一
「いやいやいや」
彩花
「待って」
彩花が名刺を見る。
彩花
「これ……本物?」
隆司
「たぶん」
健一
「お前ら」
二人を見る。
健一
「新婚旅行より先に外交やってないか?」
美咲
「旅行してないわよ!」
隆司
「仕事だよ!」
彩花
「そこじゃない!!」
⸻
そして――
工房の外。
キッシンジャーが歩いていく。
少し振り返る。
工房を見る。
小さく笑う。
そして――
その手には。
紅型の小さな布袋。
⸻
工房内。
美咲
「……隆司さん」
隆司
「ん?」
美咲
「私たち」
隆司
「?」
美咲
「普通の新婚生活って……」
隆司
「……」
隆司が考える。
隆司
「……たぶん、無理だな」
美咲
「……私もそう思う」
二人で笑う。
健一
「お前ら!!」
彩花
「仕事しなさい!!」
美咲・隆司
「はい!!」
――工房に笑い声が響いた。
⸻
(つづく)




