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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
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第五十七話 つながる布

1971年。春。


沖縄では、

新しい紅型が描き始められていた。


表面に描かれるのは、

海。

空。

村。

そして、そこで暮らす人々。


しかし――

裏面は、まだ真っ白だった。


その答えを探すため、

バックナーは数十年ぶりにアメリカへ向かう。


一方、東京では。


美咲たちが、

最後の『地位協定紅型』の部品を

見つけようとしていた。


そして、すべての布が揃ったとき。


沖縄。

東京。

ワシントン。


三つの場所が、

一本の電話でつながることになる。

1971年。春。


東京。

首相官邸。

静かな応接室。


大きな窓から、春の東京が見えている。


机の上には、いくつもの書類。


その横に――

一枚の紅型が広げられている。


美咲、隆司、彩花、健一、小林。


五人がその前に立っている。


美咲は、じっと紅型を見つめていた。


⸻


美咲

「……これで」


ゆっくり息を吐く。


「全部ですね」


小林が頷く。


小林

「最後の欠片が、ここに繋がるとはね」


健一も覗き込む。


健一

「まさか、こんなところにあったなんて……」


隆司

「尚造さんは」


「全部を一枚にするつもりだったんだろうな」


彩花

「おとう、何か知ってたのかな」


隆司

「さあな」


少し笑う。


「知ってたとしても、絶対に言わない男だった」


彩花

「……確かに」


美咲は、紅型の一部を丁寧に重ねる。


布と布が、ぴたりと重なる。


⸻


美咲

「……よし」


最後の糸を通す。


そして――

一枚の紅型が、本来の姿を取り戻す。


挿絵(By みてみん)


海。

花。

沖縄本島。

基地。

日章旗と星条旗。


そして——

未完成の署名欄。


美咲は、しばらく何も言わなかった。


健一

「……完成、ですか?」


美咲

「ううん」


少し考える。


「元に戻っただけ」


隆司

「……なるほど」


小林が静かに紅型を見る。


小林

「物としては、完成した」


「でも――」


美咲

「まだ、答えは出てない」


⸻


その時。


扉が開く。


秘書が顔を出す。


秘書

「お待たせしました」


「屋良行政主席がお見えです」


屋良が入ってくる。


屋良

「皆さん、お待たせしました」


美咲

「屋良先生!」


屋良は紅型を見る。


足を止める。


「……これが」


ゆっくり近づく。


「……あの掛け軸の」


美咲

「はい」


屋良は、紅型に手を触れない。


ただ、じっと見つめる。


⸻


その時――


佐藤が席を立つ。


部屋の空気が変わる。

全員が姿勢を正す。


佐藤は紅型を見る。

しばらく黙っていた。


そして――


佐藤

「……長い道のりだったな」


屋良

「はい」


佐藤

「1945年から」


紅型を見る。


「ここまで来た」


佐藤と屋良が、紅型の前に座る。


二人の間に、紅型が広がる。


挿絵(By みてみん)


佐藤

「沖縄返還の方針は、すでに決まっている」


「問題は――」


紅型の基地部分を見る。


「その後だ」


屋良

「基地の扱い」


佐藤

「安全保障」


屋良

「住民の権利」


佐藤

「日本の主権」


屋良

「そして」


一拍。


「沖縄の人々の暮らし」


二人とも黙る。


佐藤

「……簡単にはまとまらんな」


屋良

「はい」


屋良は紅型を見る。


屋良

「返還そのものより」


「返還した後の方が、難しいかもしれません」


⸻


一方――


部屋の隅。


美咲、彩花、隆司、健一、小林。


五人は別のテーブルで待機している。


健一(小声)

「……すごいですね」


彩花

「何が?」


健一

「首相と屋良さんが」


「目の前で沖縄返還について話してます」


彩花

「うん」


健一

「もっと緊張しません?」


彩花

「慣れた」


健一

「何に!?」


隆司と小林が同時に。


隆司・小林

「美咲、尚造2号だな」


健一

「またそれですか!?」


⸻


美咲は少し離れたところで、

佐藤と屋良の会話を聞いている。


美咲

「……」


少し考える。


そして秘書を見る。


美咲

「すみません」


秘書

「はい?」


美咲

「米軍と住民の仲を取り持てばいいんですよね?」


秘書

「……え?」


美咲

「人を紹介しましょうか?」


秘書

「人……?」


美咲

「はい」


秘書は困惑する。


⸻


美咲

「彩花ー」


彩花

「はーい」


美咲

「USCARの番号、分かる?」


彩花

「分かるよ」


健一

「分かるんですか!?」


彩花

「おとうの職場だったから」


健一

「おとうって……」


「バックナーさん?」


彩花

「うん」


秘書

「USCAR……?」


隆司

「……始まったな」


小林

「ああ」


二人同時に。


「尚造2号だ」


美咲は受話器を取る。

番号を確認する。


そして――

ダイヤルする。


挿絵(By みてみん)


⸻


沖縄。USCAR本部。


電話が鳴る。


USCAR関係者が受話器を取る。


受付

「United States Civil Administration of the Ryukyu Islands.」

(琉球列島米国民政府です)


美咲

「Hello. This is Misaki Nakamura.」

(仲村美咲です)


「I’m calling from Tokyo.」

(東京の官邸からのお電話です)


受付

「Tokyo?」

(東京?)


美咲

「Yes. I would like to speak with Commissioner Lampert.」

(はい。ランパート高等弁務官とお話したいです)


受付は少し驚く。


受付

「I’m sorry. Commissioner Lampert is currently in Washington.」

(申し訳ございませんが、ワシントンへ出張中です)


美咲

「Washington?」

(ワシントン?)


受付

「Yes.」

(はい)


美咲

「……ホワイトハウスですか?」


受付

「……」


一瞬の沈黙。


⸻


東京。


美咲が受話器を耳に当てたまま固まる。


健一

「……どうしました?」


美咲

「ワシントンにいるって」


彩花

「おとうも?」


美咲

「たぶん」


健一

「たぶん!?」


⸻


電話の向こう。


受付が確認する。


受付

「Please hold.」

(しばらくお待ちください)


保留音。


⸻


健一

「……何を待ってるんです?」


美咲

「ランパートさん」


健一

「いや、それは分かります」


小林が腕を組む。


小林

「嫌な予感がする」


隆司

「ああ」


彩花

「なんで?」


隆司

「この家族は、普通の電話で終わらない」


⸻


数秒。


電話が切り替わる。


???

「Hello?」


美咲

「……!」


聞き覚えのある声。


美咲

「ランパートさん?」


ランパート

「美咲さん?」


健一

「……!」


彩花

「ランパートさんだ」


ランパート

「どうしました?」


美咲

「沖縄返還について、少し相談したくて」


ランパート

「……今ですか?」


美咲

「はい」


ランパート

「分かりました」


少し間。


ランパート

「バックナーさんもいます」


彩花

「おとう!?」


⸻


電話の向こう。


バックナー

「……美咲か?」


美咲

「バックナーさん!」


バックナー

「元気そうだな」


彩花

「おとうー!」


バックナー

「彩花もいるのか」


彩花

「うん!」


健一。


完全に固まる。


健一

「……彩花さん」


彩花

「なに?」


健一

「この声……」


彩花

「うん」


「おとう」


健一

「……」


⸻


その時。


電話の向こうで、別の声。


低く、落ち着いた声。


???

「Who is on the phone?」


ランパート

「Mr. President」


東京。


全員が止まる。


「「………」」


屋良と佐藤まで、顔を上げる。


美咲

「……大統領?」


挿絵(By みてみん)


ランパート

「ええ」


健一

「ええ、じゃないですよ!!」


⸻


電話の向こう。


ニクソン

「This is President Nixon.」


美咲は、一瞬だけ目を丸くする。


そして姿勢を正す。


美咲

「……仲村美咲です」


ニクソン

「Nice to meet you, Miss Nakamura.」

(初めまして、仲村美咲さん)


佐藤が立ち上がる。


屋良も立つ。


佐藤

「……大統領」


ニクソン

「Prime Minister Sato.」

(佐藤総理)


二人の声が電話越しにつながる。


⸻


日本側。


佐藤。

屋良。

美咲。


アメリカ側。


ニクソン。

ランパート。

バックナー。


一枚の紅型を中心に。


東京とワシントン。

二つの国。


そして――

沖縄。


⸻


バックナー

「……どうする?」


美咲

「話しましょう」


バックナー

「何を?」


美咲は机の上の紅型を見る。


美咲

「沖縄の未来を」


ニクソンが静かに答える。


ニクソン

「……Let’s talk.」


電話会談が始まる。


しかし――


新作の紅型の裏面は。


まだ、真っ白だった。


⸻


沖縄。仲村家。


文が工房に一人で座っている。


白い反物を広げている。


表面には、

海。

空。

村。

人々の暮らし。


少しずつ色が入っている。


文は布を裏返す。


白いままの裏面。


文

「……まだですね」


静かに笑う。


挿絵(By みてみん)


⸻


東京。首相官邸。

ワシントン。ホワイトハウス。

沖縄。仲村家。


三つの場所で。


同じ問いが動き始める。


「沖縄の返還とは、何を返すことなのか。」


そして。


その答えを描くための布は――


まだ、白かった。


⸻


(つづく)

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