第三十話 敵なのに、同じものを見ている
戦争には、
敵と味方がいる。
だが文化には、
敵も味方もない。
あるのは——
だいたい
オタクである。
東京。
仲村工房。
夜。
継は机に向かっていた。
机の上。
紅型。
そして資料。
文化庁。
博物館。
保存処理。
やることは山ほどある。
継は小さく息をつく。
「……忙しい」
その時。
インターフォンが鳴る。
画面。
林明浩
「……出た」
出るか迷う。
三秒。
出る。
「はい」
林の声。
妙に明るい。
林
「継さん!」
継
「嫌な予感しかしない」
林
「連絡先交換しません?」
継
「もう電話してますよね」
林
「LINEです」
継
「嫌です」
林
「即答!?」
継
「敵ですよね」
林
「敵です」
継
「敵ですよね」
林
「でも仲良くしましょう」
継
「嫌です」
林
「文化の話しましょう」
継
「敵ですよね」
林
「市場の敵です」
継
「やっぱり敵じゃないですか」
林
「でも文化の友達にはなれます」
継
「嫌です」
林
「文化オタク同士で」
継
「嫌です」
林
「文化好きでしょう?」
継
「好きです」
林
「私もです」
継
「嫌です」
林
「なんで!?」
継
「敵だからです」
沈黙。
林
「……合理的」
継
「でしょう」
その時。
横から声。
ジョン。
ジョン
「……」
継
「なんですか」
ジョン
「いや」
一拍。
「祖父の話思い出した」
継
「?」
ジョンは言う。
ジョン
「沖縄戦」
継
「……」
ジョン
「祖父は米軍」
一拍。
「Civil Affairs」
林
「文化財回収部隊ですね」
ジョン
「そう」
継
「それが?」
ジョンは少し笑う。
ジョン
「祖父の友達」
継
「?」
ジョン
「日本兵」
継
「……は?」
林
「敵ですね」
ジョン
「敵」
継
「友達?」
ジョン
「友達」
継
「なんで」
ジョン
「文化オタク」
沈黙。
継
「は?」
ジョン
「祖父」
「文化好き」
林
「わかります」
ジョン
「日本兵」
「紅型職人」
継
「……」
ジョン
「名前」
一拍。
⸻
「尚造」
⸻
継
「……」
林
「……」
沈黙。
継
「敵ですよね」
ジョン
「敵」
継
「友達?」
ジョン
「オタク友達」
林
「文化オタクですか」
ジョン
「そう」
一拍。
ジョンは続ける。
「祖父の手帳に書いてあった」
継
「なんて」
ジョン
「尚造は敵だが友人だ」
沈黙。
継
「……」
林
「いい言葉ですね」
継
「いや」
一拍。
継
「文化おかしい」
林
「文化はだいたいおかしい」
ジョン
「祖父も言ってた」
一拍。
⸻
「文化オタクは国境越える」
⸻
沈黙。
継
「……」
林
「なので」
継
「連絡先は交換しません」
林
「えぇ!?」
継
「敵なので」
林
「文化友達は!?」
継
「嫌です」
林
「悲しい」
ジョン
「合理的」
継
「でしょう」
沈黙。
その後。
三人は紅型を見る。
静かな工房。
林が小さく言う。
「でも」
一拍。
「尚造と祖父」
さらに小さく。
「楽しそうですね」
継は少し笑う。
「でしょうね」
窓の外。
夜。
文化の話は
まだ終わらない。
⸻
(第三十話 了)




