第二十九話 二つの尚家、その違い
歴史は、
一つの道ではない。
同じ血が、
違う場所で
違う時間を生きることがある。
だが——
いつかその線は、
再び交わる。
東京。
古い屋敷。
尚家本邸。
静かな書斎。
壁には
古い家系図が掛かっている。
机の上。
新聞。
記事。
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「幻の紅型
沖縄の工房が秘蔵」
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一人の男が記事を読む。
尚家の当主。
男は呟く。
「仲村継……」
一拍。
「この名前」
向かいに座る女性。
「分家の子ですね」
男は頷く。
「そうだ」
新聞を置く。
男は家系図を見る。
そこには二つの線。
一つは
東京へ続く線。
もう一つは
沖縄へ続く線。
男は言う。
「琉球処分」
一拍。
「尚家は二つに分かれた」
女性は静かに聞く。
男は続ける。
「王族の一部は、東京へ移った」
指が家系図をなぞる。
「尚典王子の系統」
一拍。
「それが今の尚家だ」
女性の視線。
「そして」
もう一つの線。
沖縄へ向かう線。
男は言う。
「沖縄に残った血がある」
一拍。
「尚綾姫の系統」
女性は新聞を見る。
そこにある名前。
仲村継。
「……仲村家」
男は小さく頷く。
「そうだ」
静寂。
窓の外。
東京の空。
男は言う。
「歴史は、面白い」
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場面転換。
沖縄。
仲村工房。
夕方。
美咲が棚を整理している。
古い木箱。
埃を払う。
箱を開ける。
中には
古い布。
古い書類。
そして
一通の手紙。
美咲はそれを開く。
古い字。
署名。
尚造
美咲は小さく息をつく。
「……やっぱり」
一枚の紙。
古い系図。
そこに書かれている文字。
尚綾
美咲は呟く。
「私たちは、ここに残った」
窓の外。
海。
波の音。
遠くの空。
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場面転換。
東京。
高層ビル。
林明浩のオフィス。
林がタブレットを見ている。
画面。
資料。
尚家系図。
二つの線。
林は小さく笑う。
「なるほど」
画面を拡大する。
線。
東京。
沖縄。
「王家の血、二つ」
静かな声。
「そして、二人」
林は窓を見る。
夜の東京。
「面白い」
さらに小さく。
「歴史は」
一拍。
「まだ終わっていない」
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場面転換。
沖縄。
夜。
仲村工房。
継が一人。
机の上。
紅型。
あの布。
継は布を見つめる。
その模様。
波。
花。
島。
そして
どこか王家の意匠に似た模様。
継は気付かない。
ただ静かに言う。
「尚造さん」
一拍。
「あなたは」
さらに小さく。
「誰だったんですか」
外。
沖縄の夜。
波の音。
遠く。
風が吹く。
夜は静かに続いていく。
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(第二十九話 了)




