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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第一部 尚継編 ― 未来に紡ぐ色 ―
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第二十八話 文化に値段はつけられるのか

市場は

すべてに値段をつける。


土地。

芸術。

歴史。


そして時には

未来にも。


だが——


値段をつける側が

値段を計算できなくなる瞬間がある。

夜。

同じ会議室。


窓の外。

東京の灯りが遠く瞬いている。


静かな部屋。

テーブルの上。

紅型。

あの布。


林がワインをグラスに注ぐ。

静かな音。


「さて」


一口飲む。


「続けましょう」


継は立ったまま。

怒りを隠さない。


「……あなた」


一歩、前に出る。


「最初から」


一拍。


「値段の話しかしない」


林は穏やかに言う。

「それが現実です」


継は首を振る。

「違う」


沈黙。


継は紅型を見る。

そして言う。



「あなたが買おうとしてるのは」


一拍。


「布じゃない」


林は興味深そうに目を細める。


「……ほう?」


継の声は静かだ。

だが鋭い。


「選ばれなかった未来だ」


沈黙。


都市の光だけが揺れる。

継は続ける。


「戦争で」


「基地で」


「政治で」


「経済で」


一拍。


「生き延びるはずだった人たち」


さらに一拍。


「選ばれなかった未来」


林は黙って聞いている。

表情は変わらない。


継は林を見る。

真正面から。


静寂。


そして言う。



「じゃあ」


一拍。


「あなたはいくらなら買えますか?」


挿絵(By みてみん)


沈黙。

完全な沈黙。


林の手が止まる。

グラスの中のワインが揺れる。


「……」


林は継を見る。


その目。


分析。

計算。

思考。


市場価値。

文化価値。

歴史価値。

政治価値。

国家価値。

未来価値。


計算。

計算。

計算。


——止まる。


林は小さく息を吐く。


「……感情論だ」


継は即座に答える。


「いいえ」


一歩、前へ。


「あなたの論理の」


一拍。


「値札が剥がれただけです」


沈黙。


林は苦笑する。


「……なるほど」


グラスを置く。


「これは」


一拍。


「値段がつかない」


継は紅型を見る。

静かに言う。


「でしょうね」


一拍。


継は続ける。


「この布は」


「誰かが買うために残ったんじゃない」


静かな声。

だが確信。


「語られるために残った」


沈黙。


林は聞いている。


「2045年」


一拍。


「沖縄戦後100年」


継は林を見る。


「国立博物館で公開します」


静寂。


「あなたも」


一拍。


「そこに来てください」


さらに一拍。


「値段のつかないものを」


「見る目が」


「まだ残っているなら」


沈黙。

長い沈黙。



林は小さく笑う。


「……あなた」


一拍。


「最も厄介なタイプだ」


継、微笑。


「よく言われます」


「理想家」


「職人です」


挿絵(By みてみん)


沈黙。


継は紅型を手に取る。

そして言う。


「次は」


一拍。


「文化の番です」


継は背を向ける。

ドアへ向かう。


林が呟く。


「……だから」


一拍。


「歴史は」


さらに小さく。


「儲からない」



扉が閉まる。

静寂。


林は窓の外を見る。

東京の光。


林は呟く。


「……面白い」



暗転。



(第二十八話 了)


※作者より

ここまで読んでくださりありがとうございます。

あなたなら、この文化に値段をつけますか?

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