第二十七話 その文化に、いくらの値段をつけるか
売る気がなくても、
世界は値段を付ける。
それが市場だ。
文化は守れる。
だが——
価値は守れない。
東京。
深夜。
仲村工房の仮事務所。
継は一人、
机に向かっていた。
机の上。
紅型。
そして、タブレット。
そこに表示されている数字。
¥32,000,000,000
継は小さく息を吐く。
「……冗談だろ」
画面が光る。
新しい通知。
ニュース記事。
継が画面を開く。
⸻
「幻の紅型 存在か」
「沖縄の工房が秘蔵」
「文化財か 市場価値か」
⸻
継は眉をひそめる。
「……早い」
その時。
ドアが開く。
入ってきたのは
彩乃。
「継くん」
継は振り向く。
彩乃は言う。
「ニュース」
継はタブレットを見せる。
彩乃は驚く。
「え……」
スクロール。
さらに記事。
⸻
「海外コレクター関心」
⸻
彩乃は言う。
「これ……」
継は言う。
「林だ」
沈黙。
彩乃は言う。
「でも名前は出てない」
継は頷く。
「出さない」
一拍。
「それがあの人だ」
継は窓の外を見る。
夜の東京。
継は言う。
「市場を動かす」
一拍。
「空気で」
彩乃は黙る。
その時。
継のスマートフォンが鳴る。
着信。
未知の番号。
継は出る。
「……はい」
電話の向こう。
静かな声。
林明浩。
「こんばんは」
継は言う。
「……林さん」
林は笑う。
「ニュース見ました?」
継は言う。
「あなたですね」
林は答える。
「違います」
一拍。
「市場です」
継は黙る。
林は続ける。
「需要がある。それだけです」
継は言う。
「需要を作ったのは」
林。
「世界です」
継は言う。
「あなたです」
沈黙。
林は笑う。
「どちらでもいい」
一拍。
林の声。
「問題は、あなたがどうするか」
継は言う。
「売りません」
林は言う。
「まだ」
沈黙。
林は続ける。
「ですが、世界は待ちません」
継は黙る。
林は言う。
「次の提案をします」
継は聞く。
林の声。
「公開入札」
静寂。
継は言う。
「……何ですか」
林。
「世界市場」
一拍。
「透明な取引」
継は言う。
「文化財です」
林は答える。
「だからこそ」
一拍。
「価値を証明する」
沈黙。
林は言う。
「あなたは、守ると言った」
一拍。
「では守ってください」
継は黙る。
林は続ける。
「市場から」
電話が切れる。
静寂。
彩乃が言う。
「……継くん」
継は言う。
「林は」
一拍。
「戦争を始めた」
沈黙。
継はタブレットを見る。
数字。
ニュース。
市場。
継は小さく言う。
「……尚造さん」
「美咲さん」
「隆司さん」
一拍。
「あなたたちは」
「どうやって守ったんですか」
窓の外。
東京の夜。
遠くでサイレンが鳴る。
夜はまだ終わらない。
⸻
(第二十七話 了)
※作者より
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