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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
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第五十三話 エイサー将軍、再び

1970年。夏。

沖縄は、今日も暑かった。


そして。

嘉手納基地では、

なぜか米兵たちがエイサーを踊っていた。


指導しているのは――

元高等弁務官、バックナー。


なぜこうなったのか。

誰にも分からない。


CIAにも。

公安にも。

そして、たぶん本人にも。

さらにそこへ、KGBまでやって来る。


沖縄の日常は、今日も平和である。

……たぶん。


※次回から、物語は大きく動きます。

1970年8月。


嘉手納基地。


広大なグラウンドに、

数十人の米兵が並んでいた。


全員、いつもの軍服ではない。


色鮮やかな衣装。

頭には鉢巻。

手には太鼓。


その中央に立つ男が、一人。


元高等弁務官、バックナーだった。


バックナーが腕を組む。


「いいか!」


米兵たちが一斉に背筋を伸ばす。


「エイサーは軍事教練ではない!」


「……?」


米兵たちが顔を見合わせる。


「だが、気合いは必要だ!」


「Yes, Sir!」


バックナーが頷く。


「まず腰を落とせ!」


米兵たちが一斉に腰を落とす。


「もっと!」


さらに腰を落とす。


「もっとだ!」


「Sir!」


そこへ――

一人の男が現れた。


ランパート。

現在のUSCAR高等弁務官である。


グラウンドを見渡す。

そして固まった。


「…………」


目の前には、エイサー衣装を着た米兵たち。


その中央で指導するバックナー。


挿絵(By みてみん)


ランパート

「……何をしていますか?」


バックナーが振り返る。


「ああ、ランパートか」


「これは何ですか?」


「エイサーだ」


「それは分かります」


「なら問題ない」


「問題しかないです!」


ジャックが手を上げる。


「Sir!」


バックナー

「何だ?」


ジャック

「高等弁務官も参加しますか?」


ランパート

「しない」


バックナー

「する」


ランパート

「しない!」


バックナー

「在沖米軍司令官だろう?」


ランパート

「……」


ランパートが黙る。


バックナーが衣装と太鼓を渡す。


「持て」


「なぜ私が……」


「文化交流だ」


「……」


ランパートは衣装を羽織った。


「……分かりました」


バックナー

「よし」


そして――


「構え!」


ランパートが太鼓を持った。


⸻


少し離れた場所。


基地内の売店。


その陰から、

二人の男がグラウンドを覗いていた。


健一と隆司。


二人とも、アルバイト中だった。


健一が目を細める。


「……あれ」


「バックナーさんですよね?」


隆司は即答した。


「声かけるな」


「え?」


「俺らの居場所がCIAと公安にバレる」


「……」


健一はもう一度グラウンドを見る。


バックナー。

ランパート。

ジャック。

米兵たち。


全員がエイサーの振り付けを練習している。


健一

「……でも」


「高等弁務官まで踊ってますよ?」


隆司

「見なかったことにしろ」


健一

「無理がありますよ……」


隆司

「俺だって無理だ」


⸻


そのさらに遠く。


二台の車。


一台は、CIAの工作員。

隣のもう一台には、公安関係者。


二人とも双眼鏡を持っている。


CIAがグラウンドを見る。


「……」


公安も見る。


「……」


CIA

「何をしている?」


公安

「エイサーです」


CIA

「それは知っている」


「なぜ米軍基地で?」


公安

「……分かりません」


CIA

「バックナーが?」


公安

「はい」


CIA

「高等弁務官まで?」


公安

「はい」


CIA

「……」


公安

「……」


二人とも黙り込む。


その時――


グラウンドから声が響く。


バックナー

「イーヤーサーサー!」


米兵たち

「イーヤーサーサー!」


ランパート

「イーヤーサーサー!」


CIA

「…………」


公安

「…………」


CIAが双眼鏡を下ろす。


「情報分析を中止しよう」


「同感です」


⸻


すると――


背後から声。


「慣れました」


二人が振り返る。


そこには――


イワンと部下。


挿絵(By みてみん)


CIA

「……!」


公安

「……!」


イワンはグラウンドを見る。


「エイサーですね」


CIA

「なぜ知っている?」


イワン

「沖縄ですから」


公安

「お前はソ連だろ!」


イワン

「そうです」


CIA

「……」


公安

「……」


イワン

「最初は私も驚きました」


「でも、慣れました」


部下も頷く。


「私もです」


CIAと公安が顔を見合わせる。


CIA

「……」


公安

「……」


CIA

「ソ連が」


公安

「ご近所さんになってる……」


イワン

「仲良くしましょう」


CIA

「できるか!」


⸻


グラウンド。


バックナーが声を張る。


「ランパート!」


「はい!」


「足が違う!」


「私は高等弁務官です!」


「だから何だ!」


「……!」


「踊れ!」


ランパートはしばらくバックナーを睨む。


そして――

諦めた。


「……Sir!」


太鼓を叩く。


ドン!


米兵たちも続く。


ドン!

ドン!

ドン!


グラウンドに太鼓の音が響く。


健一(呆然)

「……平和ですね」


隆司

「今だけな」


⸻


1970年10月。

那覇空港。


秋の風が吹いていた。


美咲。

彩花。

隆司。

健一。

そして屋良。


それぞれ旅支度を整えている。


挿絵(By みてみん)


美咲が文を見る。


「行ってきます」


文は微笑む。


「気をつけて」


バックナーも頷く。


「東京は寒いぞ」


彩花が振り返る。


「あ」


「おとう」


「アッツ島で着てたコート、いる?」


バックナー

「……いらん」


彩花

「でも東京、寒いんでしょ?」


健一

「……そこまで寒くないですよ」


バックナーが健一を見る。


バックナー

「冬を甘く見るな」


健一

「北海道基準ですよね、それ……」


隆司が笑う。


「諦めろ」


「アッツは氷点下だった」


⸻


屋良が時計を見る。


「私は一足先に霞が関へ行ってきます」


美咲が頷く。


「はい」


隆司も続く。


「最後の紅型部品を見つけたら」


「俺たちも行きます」


屋良

「頼みます」


美咲が風呂敷を確認する。


その中には――

これまで集めてきた紅型。


その一部。

まだ足りない。

まだ完成していない。


美咲は風呂敷をしっかりと結ぶ。


「……行きましょう」


彩花

「うん!」


隆司

「ああ」


健一

「はい!」


四人が歩き出す。


文とバックナーは、その背中を見送る。


彩花が少し振り返る。


「おとうー!」


バックナー

「何だ?」


彩花

「コート、本当にいらない?」


バックナー

「いらん!」


彩花

「分かったー!」


四人の笑い声が遠ざかっていく。


文(小さく笑う)

「……元気ですね」


バックナー

「ああ」


そして――


四人の姿が見えなくなる。


バックナーは、しばらくその方向を見ていた。


⸻


その日の夕方。


沖縄の空。


赤く染まった雲の向こうに、

太陽が沈んでいく。


まだ誰も知らない。


この島の空気が――

数か月後、大きく揺れることを。


そして。


“沖縄の歴史を変える夜”が、

少しずつ近づいていた。


挿絵(By みてみん)


⸻


(つづく)

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