第四十九話 約束の夜
1969年11月19日。
「沖縄は返還される」
その約束が、
初めて日米両政府の言葉として交わされた日。
未完成だった”地位協定紅型”もまた、
新たな答えへ近づき始める。
1969年11月19日。
ワシントンD.C.
ホワイトハウス。
会談室。
静かな空気の中、
日米両国の代表団が席に着いていた。
リチャード・ニクソン。
佐藤栄作。
二人が向かい合う。
しばらく資料を見つめた後、
ニクソンが口を開いた。
「沖縄返還について」
「我々は1972年を目標とします」
佐藤は静かに頷いた。
「ありがとうございます」
「日本政府としても」
「極東の平和と安定に責任を果たします」
ニクソンも頷く。
「安全保障体制は維持する」
「その上で返還を進めよう」
二人は立ち上がる。
固い握手。
カメラのフラッシュが光った。
⸻
数時間後。
記者会見。
「共同声明を発表します」
会場中に拍手が響く。
世界へ向けて、
沖縄返還への道筋が示された。
⸻
1969年12月。
沖縄。
仲村工房。
縁側。
数人の青年が、
大きな木箱を運び込んでいた。
「こちらへ置きますね」
木箱が開く。
中から現れたのは、
白黒テレビ。
美咲は目を輝かせた。
「テレビ!」
彩花も嬉しそうに笑う。
「ようやく来たね〜!」
文は苦笑する。
「時代が変わるわねぇ」
バックナーは静かに眺めていた。
「ニュースが早く届くようになるな」
その日の夜。
画面にはニュース。
『佐藤・ニクソン共同声明』
『沖縄返還へ』
美咲は食い入るように見つめる。
「返ってくるんだ……」
屋良も静かに頷いた。
「ようやく」
「ここまで来ました」
誰も言葉を続けなかった。
⸻
1969年12月31日。
夜。
仲村家。
こたつ。
湯気が立つ。
年越し沖縄そば。
文が笑う。
「いただきます」
「いただきます!」
美咲。
彩花。
隆司。
四人は揃って箸を取る。
外では、
静かな冬の風が吹いていた。
⸻
縁側。
バックナーは一人、
夜空を見上げていた。
遠くには満天の星。
戦争で見上げた空。
復興の空。
キューバ危機の空。
そして今。
返還を待つ沖縄の空。
静かに目を閉じる。
(尚造)
(ようやくここまで来た)
(だが――)
(まだ終わりじゃない)
部屋の中から、
彩花の声が聞こえた。
「おとうー」
「麺、伸びるよー」
バックナーは思わず笑う。
「ああ」
「今行く」
もう一度だけ夜空を見上げる。
風が吹いた。
縁側の『地位協定紅型』が、小さく揺れる。
バックナーは掛け軸へ静かに目を向けた。
「尚造」
「お前が残した問いに」
「今度こそ答えを出そう」
そう呟くと、
ゆっくり部屋へ戻っていった。
⸻
こたつでは。
文がそばを取り分け、
美咲が笑い、
彩花が隆司へちんすこうを勧め、
皆が穏やかに笑っていた。
バックナーも席に座る。
文が湯呑みを差し出す。
「おかえりなさい」
バックナーは微笑んだ。
「ああ」
「ただいま」
外では除夜の鐘が、
静かに響き始めていた。
⸻
1969年。
沖縄返還への約束が交わされた年。
そして仲村家もまた、
新しい時代を迎えようとしていた。
⸻
(つづく)
【作者より】
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
バックナー編は、ここで美咲編 第2話へと繋がります。
もしまだ美咲編を読まれていない方は、
ぜひ一度そちらも覗いてみてください。
同じ沖縄返還への道を、
美咲たちの視点から描いた物語です。
そして――。
バックナー編は、ここから先も続きます。
美咲編で描かれた出来事を、
別の場所・別の人物の視点から見ると、
少し違った景色が見えてきます。
「あの場面の裏側では、何が起きていたのか?」
そんなところも楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは、次の物語へ。
美咲編 第2話も、ぜひどうぞ!




