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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
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第四十八話 暗号の手紙

1969年秋。

沖縄返還交渉が、いよいよ本格的に始まる。


東京では、

佐藤栄作首相とニクソン大統領による

首脳会談の準備が進む。


一方その頃。


国立博物館では、

沖縄文化財の将来について

静かな議論が続いていた。


政治の最前線と、文化を守る現場。


一見無関係に見える二つの場所が、

一通の手紙によって仲村家へと繋がっていく。

1969年10月。


東京。

国立博物館。


朝。

展示室。


琉球王国時代の陶器や古文書が

静かに並んでいる。


健一は展示品を拭いていた。


館長が新聞を読みながら呟く。


「いよいよですね」


健一が振り返る。


「何がですか?」


館長は新聞を差し出す。


見出し。


『佐藤首相、ワシントン訪問へ』


『沖縄返還交渉 大詰め』


健一は少し驚く。


「沖縄が返ってくるかもしれないんですね」


館長は頷いた。


「文化財もどうなるか考えないとな」


その時だった。


小林が新聞を静かに畳む。


「少し外へ出ます」


館長が顔を上げる。


「会議は?」


「五分で戻ります」


健一が首を傾げる。


「小林さん?」


小林は微笑んだ。


「散歩ですよ」


そう言って博物館を出ていった。


⸻


東京。


喫茶店。


新聞を読む会社員。

談笑する客。


その一角。

小林が一人座っていた。


向かいへ一人の男が座る。

外務省職員だった。


二人ともコーヒーを飲む。


職員が静かに言う。


「今年は紅葉が早いですね」


小林は頷く。


「ええ」


「冬も早そうです」


少し沈黙。


職員は新聞を畳む。


「上野は賑やかになります」


小林も新聞を閉じた。


「祭りは11月19日ですね」


挿絵(By みてみん)


職員はコーヒーを飲み干す。


「では」


「また博物館で」


二人は握手もせず席を立った。


まるで世間話だけをしたようだった。


⸻


数分後。


博物館。


健一が心配そうに聞く。


「小林さん」


「どこへ行ってたんですか?」


「喫茶店」


「何しに?」


「コーヒーを飲みに」


健一は納得しかける。


しかし。


机へ戻った小林は、

一枚の便箋を書き始めた。


『上野の紅葉は今年も美しい』


『祭りは11月19日』


『冬支度を忘れずに』


健一は覗き込む。


「季節のお便りですか?」


小林は微笑んだ。


「そんなものだ」


館長も通り掛かる。


「小林くん?」


「はい?」


「君、本当に学芸員だよね?」


小林は真顔で答えた。


「もちろんです」


挿絵(By みてみん)


健一は小さく呟く。


「……怪しい」


⸻


数日後。


沖縄。

仲村工房。

縁側。


文がお茶を淹れている。


屋良。

バックナー。

美咲。

彩花。

隆司。


全員が揃っていた。


郵便配達員が封筒を渡す。


「東京からです」


隆司は差出人を見る。


「……小林か」


静かに封を切る。


便箋を読む。


「…………」


屋良が首を傾げる。


「読めるんですか?」


隆司は頷いた。


「CIAの検閲対策だ」


挿絵(By みてみん)


美咲は目を丸くした。


「全部暗号なんですか?」


「そうだ」


彩花が苦笑する。


「普通に書けばいいのに」


隆司も苦笑した。


「普通に書いたら届かん」


バックナーが笑う。


「昔から変わらんな」


隆司は便箋へ鉛筆で書き込み始める。


『紅葉』

(意味:共同声明)


『祭り』

(意味:11月19日)


『冬支度』

(意味:返還交渉最終段階)


屋良が感心する。


「なるほど……」


「そういう意味でしたか」


美咲は首を傾げる。


「私には全然分かりません」


彩花も笑う。


「私も」


文がさんぴん茶を注ぐ。


「昔の人は大変だったのねぇ」


バックナーが湯呑みを持つ。


「情報一つ運ぶだけでも命懸けだった」


誰も冗談とは思わなかった。


⸻


隆司は最後の一文を静かに読む。


『時計はようやく合います』


便箋を屋良へ渡した。


屋良は静かに読み終え、遠くを見つめる。


「……ようやく」


「東京と沖縄の時計が」


「同じ速さで動き始めましたね」


挿絵(By みてみん)


縁側には静かな風が吹く。


床の間では、

未完成の『地位協定紅型』が、

静かに揺れていた。


その”答え”は、

もうすぐ目の前まで来ていた。


⸻


(つづく)

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