第四十三話 総理、沖縄に来る
1965年。
佐藤栄作、沖縄へ。
沖縄の未来を考える大切な一日――
……のはずが、
言語問題でまさかの大混乱!
さらに、USCARと復帰活動家が
仲村家で仲良くお茶会!?
『Bingata Legacy』名物の
呉越同舟コント回をお届けします(笑)
1965年8月。
東京。
首相官邸。
執務室。
秘書が慌ただしく書類を抱えて入ってくる。
「総理」
「来週の沖縄訪問ですが……」
佐藤栄作は顔を上げた。
「何かね」
秘書は少し言い淀む。
「現地では反発も予想されています」
「警備当局も慎重な対応を求めています」
少し間。
「ケネディ大統領暗殺から、
まだ二年しか経っておりません」
執務室は静まり返る。
佐藤は窓の外を見つめた。
そして静かに口を開く。
「それでも行く」
「沖縄が復帰しない限り」
「わが国の戦後は終わらない」
秘書はゆっくり頭を下げた。
「……承知しました」
⸻
数日後。
沖縄。
USCAR。
高等弁務官室。
ランパートが資料を整理している。
そこへ屋良が入室した。
「失礼します」
「ようこそ」
しばらくして。
佐藤も部屋へ入る。
三人は握手を交わした。
一通り挨拶を終えた後。
佐藤が穏やかに尋ねた。
「以前から気になっていたのですが」
「沖縄の皆さんは」
「日本語と英語をどう使い分けているのですか?」
屋良とランパートは顔を見合わせた。
「……?」
「……?」
屋良
「学校や役所では日本語ですね」
ランパート
「軍では英語です」
佐藤
「なるほど」
屋良は付け加えた。
「家ではウチナーグチです」
佐藤の動きが止まる。
「……三種類?」
「「はい」」
二人は同時に頷いた。
佐藤は苦笑する。
「忙しいですね」
ランパートは真顔で答える。
「慣れると便利ですよ」
屋良も笑った。
「自然と覚えます」
少し離れた場所で控えていた秘書は、
小さくため息をつく。
(……来年の大統領との会談)
(総理、大丈夫でしょうか)
⸻
その日の午後。
仲村工房。
縁側。
蝉の声が響く。
文がお盆にさんぴん茶とちんすこうを並べる。
「どうぞ」
屋良が頭を下げる。
「ありがとうございます」
ランパートも湯呑みを受け取った。
「いただきます」
塀の外。
近所の村男たちがひそひそ話をしている。
「見ろ」
「USCARと復帰活動家がお茶飲んでる」
「仲村家だからなぁ」
「いつものことさ」
皆、苦笑して去っていった。
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縁側。
文が笑う。
「総理、大変だったでしょう?」
屋良が肩をすくめる。
「言葉の説明だけで一苦労でした」
ランパートも苦笑した。
「英語、日本語、ウチナーグチ」
「私も最初は混乱しました」
文がくすりと笑う。
「沖縄では普通なんですよ」
バックナーが湯呑みを置いた。
「俺も昔は何を言っているのか全く分からなかった」
文が頷く。
「でも今では畑のおじぃですから」
皆が笑う。
バックナーも肩をすくめた。
「否定できんな」
穏やかな笑い声が庭へ広がる。
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しばらくして。
笑い声が静まる。
湯呑みを置く音だけが響いた。
屋良の視線が床の間へ向く。
掛け軸――『地位協定紅型』
静かに揺れている。
屋良はゆっくり立ち上がった。
掛け軸の前まで歩く。
しばらく見つめる。
そして振り返った。
「……高等弁務官」
ランパートも静かに姿勢を正した。
バックナーは黙って頷く。
屋良は静かに言った。
「本題に入りましょう」
「“沖縄の未来”について」
縁側を吹き抜ける夏風が、
紅型をゆっくりと揺らした。
⸻
(つづく)




