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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
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320/352

第三十六話 観光客の正体

CIAとKGB。


二つの情報機関が、

一枚の布団を追い始める。


歴史の裏側で、

仲村家に冷戦の足音が近づく。


※本作独自のフィクションを含みます。

1962年10月。


朝。


那覇市。


青い空。


観光バスが停まる。

外国人観光客たちが降りてくる。


カメラを首から下げ、

土産袋を抱え、

楽しそうに笑っていた。


その中に。

イワンもいた。


麦わら帽子。

アロハシャツ。

首からカメラ。


誰が見ても、

ただの外国人観光客だった。


挿絵(By みてみん)


部下が小声で聞く。


「同志」


「本当に紅型を見学するだけですか」


イワンは笑う。


「観光だ」


「沖縄観光を楽しもう」


そう言って歩き出した。


⸻


仲村工房。


美咲が庭を掃いている。


「いらっしゃいませ!」


観光客たちが店へ入る。


イワンも笑顔を作る。


「Beautiful」


文が頭を下げた。


「ありがとうございます」


彩花が紅型を広げる。


「こちらが人気の商品です」


イワンは一枚一枚、静かに見つめる。


紅型。

工房。

床。

天井。

逃げ道。


全てを記憶していた。


美咲が首を傾げる。


「写真、いっぱい撮ってますね」


イワンは笑った。


「思い出だから」


挿絵(By みてみん)


その笑顔は、

どこまでも自然だった。


⸻


夕方。


観光客たちは帰っていく。


文が小さく手を振る。


「ありがとうございました」


イワンも軽く会釈した。


「また来ます」


そう言い残し、静かに去っていった。


⸻


夜。


仲村家。


子どもたちは眠っていた。


縁側。


バックナーが立っていた。


隆司が庭から戻ってくる。


「見送りは終わったか」


「はい」


少し沈黙。


バックナーが切り出す。


「CIA」


「KGB」


「何を隠している」


隆司は答えない。


バックナーは続けた。


「尚造の遺品だ」


長い沈黙。


潮風が吹く。


隆司は静かに口を開いた。


「……尚造さんは」


「戦地で未来を描いたんです」


挿絵(By みてみん)


バックナーは目を閉じた。


「未来?」


「はい」


「誰にも理解されない未来です」


隆司は空を見上げる。


「あの日」


「尚造さんは紅型の布団へ書き込んでいました」


少し間。


「炎」


「巨大な円」


「当時の俺には分からなかった英語」


虫の声が響く。


「尚造さんは」


「100年後の人間へ」


「残したんです」


バックナーは、ゆっくり息を吐く。


「だから」


「ホワイトハウスへ送ったのか」


「はい」


「大統領が思い留まれば」


「誰かが助かると思いました」


沈黙。


潮風が吹く。


バックナーは低く言う。


「KGBは必ず来る」


隆司も頷く。


「今日、来ました」


「……やはり」


「どうしますか」


再び静寂。


⸻


その時だった。


台所から声がした。


「私に任せて」


二人は同時に振り向く。


文だった。


湯呑みを盆に載せ、

静かに歩いてくる。


バックナーは目を丸くした。


「文さん?」


隆司も驚く。


「危険です」


文は笑った。


「男の人は難しく考えすぎ」


三人分のお茶を置く。


「母親は」


少し笑う。


「怒ると怖いんですよ」


挿絵(By みてみん)


バックナーと隆司は、

思わず顔を見合わせた。


言葉が出ない。


文は静かに微笑む。


「お客様なら」


「私がおもてなしします」


⸻


縁側を渡る夜風が、

掛け軸を静かに揺らした。


その掛け軸の向こうでは、

美咲たちが静かな寝息を立てている。


文はその部屋を一度だけ見つめ、

穏やかな笑みを浮かべた。


⸻


(つづく)

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