第三十三話 帰ってきた用心棒
家族に守られてきた少女は、
自ら未来を選び始める。
新しい学校。
新しい仲間。
そして、再会する一人の青年。
美咲の新たな一歩が、
やがて物語を大きく動かしていく。
1960年。春。
ベルリン。
雪が残る街。
米軍関係者が一人の男へ書簡を渡す。
「仲村家からだ」
隆司は封を切る。
中にはバックナーの短い手紙。
|娘たちが見られている。
|判断は任せる。
隆司は静かに目を閉じた。
(彩花との約束だ)
(悪いやつは、追い払ってやる)
ゆっくり荷物を背負う。
「帰るか」
⸻
場面転換。
沖縄。
仲村工房。
文。
彩花。
美咲。
バックナー。
港へ向かう。
船が接岸する。
甲板から降りてきた一人の男。
世界を巡った隆司だった。
美咲と彩花が笑う。
「おかえりなさい」
隆司は小さく笑う。
「ただいま」
文も静かに笑う。
「長かったですね」
隆司は頭を下げた。
「遅くなりました」
⸻
数日後。
朝。
仲村家前。
若者たち。
「美咲ちゃん!」
「今日も学校?」
そこへ。
後ろから一人の男が近付く。
「おはようございます」
隆司だった。
若者たちが固まる。
「……誰?」
隆司
「仲村家でお世話になります」
礼儀正しい。
しかし圧倒的な威圧感。
若者たち
「……また今度!」
逃げる。
彩花が吹き出す。
「まだ何もしてないのに」
隆司
「?」
⸻
通学路。
今度は米兵。
「Hi!」
「Beautiful!」
隆司
「Good morning.」
握手。
ぎりっ。
米兵
「Have a nice day…」
そそくさ退散。
美咲
「……強い」
彩花
「世界中回った人だからね〜」
⸻
アメリカンスクール。
教室。
先生
「新しい友達を紹介します。」
美咲は前へ出る。
少し緊張。
「My name is Misaki Nakamura.」
(仲村美咲です)
「Nice to meet you.」
(はじめまして)
教室が静かになる。
その時。
一人の少年が勢いよく立ち上がる。
「Welcome!!」
(ようこそ!!)
真っ黒な肌。
満面の笑顔。
「I’m Jack Harrison!!」
(ジャック・ハリソンだ!!)
教室が笑いに包まれる。
美咲も笑った。
「よろしくお願いします」
⸻
放課後。
校庭。
ジャックが英語で話しかける。
「君、日本語も英語も話せるの?」
美咲
「まだ勉強中」
ジャック
「じゃあ一緒に勉強しよう!」
その様子を校門から見守る隆司。
少し安心したように笑う。
⸻
その夜。
美咲は庭で隆司と向き合った。
世界を渡り歩いてきた男は、
静かに膝をつき、
仲村家へ仕える覚悟を告げた。
「この身は、仲村家のためにあります」
その言葉を聞いた時、
美咲は初めて理解した。
守られることは、
弱さではない。
守る者にも、
守られる者にも、
同じ覚悟が必要なのだと。
「私は――」
美咲は胸の前で、そっと手を握った。
「守られるだけの人間で
いるつもりはありません」
「でも……」
「守ってくれる人がいるということを、
誇りに思いたいんです」
夜風が、二人の間を通り抜ける。
「だから私も」
「いつか誰かを守れる人になります」
美咲は、少し震えながらも、
はっきりと言った。
「隆司さん」
「……お願いします」
隆司は立ち上がり、一歩後ろに下がる。
主と従者。
だが、そこにあるのは恐怖でも支配でもない。
覚悟を共有した者同士の距離だった。
⸻
翌朝。
美咲。
彩花。
ジャック。
三人が笑いながら歩いていく。
その少し後ろ。
一定の距離を保って歩く隆司。
バックナーがその姿を見る。
「立派になったな」
文が頷く。
「ええ」
「これで、あの子たちも前へ進めます」
春風が吹く。
美咲は新しい学校へ。
隆司は新しい使命へ。
そして仲村家もまた、
新しい時代へ歩き始めていた。
⸻
(つづく)




