第三十一話 狙われた姉妹
戦争が終わり、復興が進む沖縄。
美咲と彩花も、
いつしか村で評判の娘へと成長していた。
しかし、人々が向ける視線は、
必ずしも純粋なものばかりではない。
仲村家とバックナー家に
”新たな試練”が訪れる。
1959年。春。
朝。
仲村工房。
機織りの音が静かに響いていた。
文が糸を整え、
彩花が布を畳む。
美咲は学校へ向かう支度をしていた。
一年が過ぎ、
二人はすっかり大人びていた。
彩花は十七歳。
美咲は十四歳。
村でも評判の姉妹になっていた。
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工房の外。
村の若者たちが歩きながら、
仲村家をちらりと見る。
「あ、美咲ちゃんだ」
「彩花さんもいるぞ」
一人が小声で言った。
「昔さ」
「美咲、小学校で言ってたよな」
『仲村家にはお宝の絵がある』
別の男が頷く。
「ああ」
「バックナー家にはテレビも電話もある」
「もし結婚したら……」
さらに別の男が続ける。
「一生困らないかもな」
皆が笑った。
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その時。
美咲が玄関から出てきた。
「あ、おはようございます!」
若者たちは慌てて姿勢を正す。
「お、おはよう!」
「今日も学校?」
「途中まで送ろうか?」
美咲は困ったように笑う。
「だ、大丈夫です」
そのまま早足で歩き出した。
若者たちは名残惜しそうに見送る。
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昼。
市場。
文が買い物をしている。
そこへ近所のおばさんたちが集まってきた。
「文さん」
「美咲ちゃん、大きくなったわねぇ」
「彩花ちゃんも本当に綺麗」
文は微笑む。
「ありがとうございます」
おばさんが声を潜める。
「ねぇ」
「彩花ちゃんと仲良いでしょう?」
「うちの息子を紹介してくれない?」
もう一人も続く。
「うちの息子もお願い!」
「真面目なのよ!」
文は少しだけ笑顔を止めた。
「……そうですか」
それだけ言って会釈し、
静かに市場を後にした。
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夕方。
仲村工房。
美咲が帰宅する。
「ただいま!」
しかし様子がおかしい。
彩花が気付く。
「どうしたの?」
美咲は鞄を置き、力なく座った。
「今日も……」
「途中まで送るって言われた」
彩花は苦笑する。
「また?」
美咲は頷く。
「市場でも」
「知らない人に話しかけられた」
文は黙って聞いていた。
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その夜。
文は静かに机へ向かった。
紙を一枚ずつ並べていく。
名前。
年齢。
家。
見た場所。
美咲が不思議そうに尋ねる。
「お母さん?」
文は筆を止めない。
「少し」
「村に話があります」
彩花と美咲は顔を見合わせた。
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翌日。
町内会。
村人たちが集まっていた。
文は静かに前へ立つ。
「今日は」
「皆さんにお願いがあります」
そう言って紙を配り始める。
村人たちは目を通す。
「これは……?」
文は穏やかな口調で言った。
「娘たちに声を掛けた方のお名前です」
一瞬。
会場が静まり返った。
若者たちの顔色が変わる。
「えっ……」
「全部分かってる……」
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その時だった。
後ろの席から、
復員兵の村男たちが立ち上がる。
「お前たち」
低く響く声だった。
「尚造さんは」
「命を懸けて村を守った」
もう一人が続く。
「その娘たちを」
「財産目当てで見るのか」
三人目。
「家を守れる男になれ」
四人目。
「金を守るんじゃない」
「人を守れ」
最後に最年長のAが、静かに言った。
「尚造さんの顔に泥を塗るな」
若者たちは俯いた。
誰も反論できなかった。
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町内会が終わる。
帰り道。
文は空を見上げた。
「尚造さん」
「村はまだ、大丈夫そうですよ」
春風が、
仲村工房の暖簾を優しく揺らした。
⸻
(つづく)




