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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
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第二十九話 沖縄そば会談

歴史は、ときに人々を引き裂く。


それは国同士だけではなく、

親子も例外ではない。


それでも、

一緒に食卓を囲める日が来るなら――。

今回は、そんな「家族の再出発」を描いた物語です。


……あと。

沖縄そばを囲んで米ソが意見一致します(笑)

1956年。夏。


昼。


仲村工房。


織機の音が静かに響いている。


彩花は布を抱えながら歩いていた。


「よいしょ……」


その時。


入口から青年が顔を覗かせた。


バックナーの息子だった。


「彩花」


彩花は振り向く。


「あ、お兄ちゃん」


息子は少し笑う。


「昼飯まだだろ?」


「そば食いに行かないか?」


挿絵(By みてみん)


彩花の目が輝く。


「行く!」


文は思わず笑った。


「即答ね」


美咲も手を振る。


「いってらっしゃーい!」


⸻


村の沖縄そば屋。


昼時。


店内は多くの客で賑わっていた。


一番奥の席。


バックナーが静かに座っている。

その向かいにはジョン。


さらに入口の戸が開く。


帽子を被った外国人男性。


イワンだった。

店内を見回し、無言で隣へ座る。


バックナーが眉を上げる。


「……お前か」


イワンは肩をすくめた。


「偶然だ」


さらに。

戸が開く。


屋良が入ってきた。


「あれ?」


「皆さんお揃いですか?」


ジョンが苦笑した。


「偶然らしいですよ」


屋良も笑う。


「では私も」


自然に席へ座った。


⸻


店員が沖縄そばを運んできた。


湯気が立ち上る。


バックナーは箸を持つ。

じっと眺める。


「……」


隣ではイワンも同じだった。


「難しいな」


屋良は笑った。


「こう持つんですよ」


手を添えて教える。


バックナーは真似する。

イワンも真似する。


二人とも慎重だった。


ジョンが笑う。


「士官教育より難しそうですね」


ようやく麺を持ち上げる。


バックナー

「……音を立てるのか?」


イワン

「失礼ではないのか?」


屋良は笑顔で答えた。


「沖縄では美味しく食べている証拠ですよ」


二人は顔を見合わせる。


「「沖縄文化、難しい」」


挿絵(By みてみん)


ジョンとイワンの部下が同時に頷いた。


「「初めて意見が一致しました」」


⸻


その時。


戸が開く。


彩花と息子が入ってくる。


彩花は店内を見渡した。


固まる。


「……何このメンバー」


挿絵(By みてみん)


息子も目を丸くする。


「父さん」


「交友関係どうなってるの」


バックナーは静かに答えた。


「偶然だ」


イワンも頷く。


「偶然だ」


ジョンは小さく笑った。


「今日は偶然が多いですね」


⸻


しばらくして。


彩花の前にも沖縄そばが運ばれる。


店内は静かになった。


息子がゆっくり口を開く。


「父さん」


バックナーが顔を上げる。


「昔は普通の先生だったよな」


屋良の箸が止まる。


息子は続けた。


「授業して」


「家では普通の父親だった」


少し俯く。


「変わったのは」


「戦争へ行ってからだ」


店内が静まり返る。


イワンも黙って聞いていた。


息子は父を見る。


「父さん」


「アッツと沖縄で」


「何があったんだ?」


長い沈黙。


バックナーは静かに箸を置いた。


「……いつか話す」


さらに少し考える。


「今言えるのは」


「アッツは寒い」


「沖縄は暑い」


挿絵(By みてみん)


彩花がすぐに突っ込む。


「おとう!」


「省略しすぎ!」


ジョンも苦笑した。


「そこではありません」


店内に少し笑いが戻る。


⸻


イワンが静かに口を開く。


「お前たち第10軍は……」


「北極圏から沖縄まで」


「よくあれだけ振り回されたな」


少し笑う。


「ホワイトハウスは随分人使いが荒い」


バックナーも苦笑した。


「命令だからな」


「それに」


「クレムリンに言われたくない」


イワンは肩をすくめた。


「それもそうだ」


屋良とジョンは二人を見る。


屋良

「……?」


ジョン

「軍人にしか分からない会話ですね」


⸻


少し間が空く。


バックナーは彩花を見る。


「……工房はどうだ」


彩花は少し照れながら答えた。


「楽しい」


「でも疲れる」


バックナーは小さく笑った。


「そうか」


彩花も笑う。


「まだ見習いだからね」


バックナーはゆっくり頷いた。


「焦らなくていい」


少し沈黙。


彩花が小さく言う。


「……今日は帰る」


バックナーは驚いたように顔を上げた。


「そうか」


「……ありがとう」


彩花は照れくさそうに笑う。


「でも」


「また文さんのところ行く」


文の口調を真似する。


「工房の下働きがあるから」


全員が笑った。


⸻


ジョンが箸を持ち上げる。


「皆さん」


「麺が伸びますよ」


慌てて全員がそばをすすり始める。


屋良はその光景を見て微笑んだ。


「こうして」


「立場の違う人たちが」


「一緒に食事できる」


「それだけでも平和ですね」


誰も否定しなかった。


店には、

麺をすする音だけが、

静かに響いていた。


⸻


夕方。


バックナー家。


玄関。

扉が開く。


妻が笑顔で迎えた。


「お帰りなさい」


彩花は少し照れながら答える。


「……ただいま」


妻は優しく抱きしめた。


「お帰り」


その後ろで。


バックナーが少し照れくさそうに立っている。


妻は微笑む。


「あなたも」


「ただいま、でしょう?」


バックナーが少し間を置く。


家の中を見る。


娘。

息子。

妻。


そして、少し笑った。


「……ただいま」


挿絵(By みてみん)


夕暮れの光が、

バックナー家を優しく照らしていた。


⸻


1956年。


沖縄では、

政治も、人々の心も揺れていた。


それでも。


「お帰り」と「ただいま」を交わせる場所は、

家族にとって何より大切だった。


争いの中でも、

笑い合える食卓は残る。


それが、

仲村家とバックナー家が守ろうとしていた

“日常”だった。


⸻


(つづく)

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