↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
PR
310/349

第二十六話 土地接収――空に城を築く男

戦争は終わった。

だが、平和はまだ始まっていなかった。


復興のため。

安全保障のため。


それぞれが「沖縄の未来」を願った結果、

人々は初めて同じ方向を向けなくなる。

1953年4月。


朝。


USCAR本部。

執務室。


机の上には、

一枚の命令書が置かれていた。


『土地収用令』


バックナーは、

その文字を静かに見つめていた。


挿絵(By みてみん)


部屋には誰もいない。


窓の外では、

輸送機が滑走路を飛び立っていく。


ゆっくり目を閉じる。


(……来たか)


ノックの音。


ジョンが入室した。


「高等弁務官」


「準備が整いました」


「……本当によろしいのでしょうか?」


バックナーは命令書を手に取る。


「……ああ」


静かに立ち上がった。


⸻


数時間後。


真和志(まわし)村。

(現代の那覇市)


畑。


武装した兵士。

大型ブルドーザー。

測量隊。


村人たちは呆然と立ち尽くしていた。


「何が始まるんだ……」


「まさか……」


その時。


軍用ジープが止まる。


バックナーが降りてきた。


挿絵(By みてみん)


ざわめきが広がる。


「将軍だ」


「本当に来た」


バックナーはゆっくり前へ進む。


帽子を脱いだ。


「本日より」


「この地域の土地収用を開始する」


静かな声だった。


しかし。


村全体が凍り付いた。


⸻


「ふざけるな!」


怒号が響く。


「俺たちの畑だ!」


「親父の代から守ってきた土地だ!」


「武装兵まで連れて来るのか!」


文も人混みの中から前へ出た。


まっすぐバックナーを見る。


「……あなたは」


少し震える声。


「やっぱりアメリカ人なのね」


バックナーは答えない。


文は続けた。


「何をするつもり?」


しばらく沈黙。


やがてバックナーは、

遠くの首里城跡を見つめた。


静かに言う。


「空に城を築く」


挿絵(By みてみん)


誰も意味が分からない。


バックナーは続けた。


「ここは」


「兵たちの城下町になる」


文は言葉を失った。


⸻


その時。


人混みをかき分けて、

屋良が歩いてくる。


その手には一枚の設計図。

屋良は静かに広げた。


滑走路。

兵舎。

住宅。

病院。


そして、学校。


屋良は学校の印を指差す。


「高等弁務官」


バックナーは顔を上げた。


「この学校で」


「私は子どもたちに何を教えればいいのでしょう」


挿絵(By みてみん)


風だけが吹く。


「土地は力で奪われる」


「だから従え」


「そう教えればいいのですか?」


バックナーは答えなかった。


屋良は静かに続ける。


「私は」


「子どもたちに胸を張って教えたい」


「だから」


「このやり方には賛成できません」


二人の視線が交わる。


互いに怒鳴らない。

互いに目を逸らさない。


⸻


バックナーは静かに息を吐いた。


「屋良先生」


「私も」


「好きで命令しているわけではない」


一拍。


「だが」


「朝鮮半島では今も戦争が続いている」


「戦火は東南アジアへ広がるだろう」


「沖縄から補給しなければ」


「もっと多くの命が失われる」


屋良は静かに首を振る。


「止めるために」


「島の暮らしを壊してはいけません」


長い沈黙。


もう二人の間に、笑いはなかった。


⸻


やがて。


バックナーは帽子を被り直した。


「……作業を開始する」


兵士たちが動き始める。

ブルドーザーがゆっくり前へ進む。


土が削られる。

畑が崩れる。


文は目を閉じた。


村人たちは誰も動けなかった。


⸻


夕方。


仲村家。

縁側。


誰も話さない。

彩花も。

美咲も。


静かだった。


文は遠くの空を見る。


軍用機が飛ぶ。


小さく呟く。


「尚造さん……」


「これが」


「あなたの見た未来なの……?」


⸻


同じ頃。


USCAR本部。

執務室。


バックナーは一人だった。


机には、

今日署名した命令書。


その横には、

尚造が遺した『日米地位協定』紅型。


挿絵(By みてみん)


静かに布へ触れる。


「……尚造」


「俺は」


「守るために壊した」


「これで良かったのか」


答える者はいない。


⸻


その夜。


屋良は教室に一人残っていた。


黒板へ、ゆっくり書く。


『自治』


しばらく見つめる。


そして小さく呟いた。


「まだ」


「終われない」


⸻


1953年。


土地収用は始まった。


基地は広がる。


人々の怒りもまた、

静かに広がり始めていた。


その矛先は、

高等弁務官バックナーへ向けられていった。


それは。


沖縄を守ろうとした軍人と、

沖縄で暮らす人々が、

最も遠く離れた瞬間でもあった。


⸻


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。