↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
PR
309/349

第二十五話 軍人と先生

1952年。

沖縄は、新しい時代を迎えた。


学校を守ろうとする教師。

島を守ろうとする軍人。


目指す未来は同じでも、

その道は決して一つではない。


今回は、

後に“沖縄県知事”となる

屋良朝苗(やらちょうびょう)が初登場します。

1952年。春。


朝。


USCAR本部。


新しく整えられた会議室。


長机には沖縄各地から集まった

代表者たちが座っていた。


挿絵(By みてみん)


教育。

農業。

医療。

行政。


それぞれの課題を話し合うためである。


バックナーは静かに席へ着いた。


「それでは始めよう」


部屋が静かになる。


⸻


最初の議題。


教育。


一人の男性がゆっくり立ち上がった。


丸眼鏡。

穏やかな表情。

教師らしい落ち着いた口調。


「屋良朝苗(やらちょうびょう)です」


「沖縄教職員会を代表して参りました」


挿絵(By みてみん)


バックナーは資料を見る。


(教師か)


屋良は静かに話し始めた。


「学校が足りません」


「机も足りません」


「教科書も足りません」


少し間を置く。


「そして」


「先生も足りません」


会議室が静まり返る。


⸻


バックナーは腕を組んだ。


「教師不足か」


屋良は頷く。


「ええ」


「先生も生活があります」


「待遇を改善しなければ続きません」


バックナーは少し考えたあと、

ふっと笑った。


「それは分かる」


屋良が少し驚く。


「え?」


バックナーは静かに答えた。


「私は士官学校で教えていた」


屋良の目が少し丸くなる。


「高等弁務官が?」


「ああ」


「教壇にも立った」


屋良は思わず笑った。


「それは失礼しました」


バックナーは懐かしそうに話す。


「学生は眠る」


屋良は即座に頷く。


「寝ますね」


「後ろの席ほど寝ます」


バックナー

「質問すると急に元気になる」


屋良

「試験前だけ勉強します」


バックナー

「締切直前だけ提出する」


屋良

「同じです」


挿絵(By みてみん)


二人は同時にため息をついた。


「「教師は苦労する」」


ジョンは思わず吹き出した。


「意気投合しましたね」


会議室に笑いが広がる。


⸻


しばらくして。


屋良は真剣な表情へ戻った。


「ですが」


「教育だけではありません」


会議室の空気が変わる。


「自治についても考えなければなりません」


バックナーも姿勢を正した。


「続けてください」


屋良はゆっくり話す。


「沖縄は」


「沖縄の人が考え」


「沖縄の人が決める」


「それが自治です」


挿絵(By みてみん)


静かな声だった。


しかし強かった。


⸻


バックナーも静かに答える。


「軍人の考えは違う」


「自治は」


「守れる者だけが持てる」


一拍。


「力のない自治は」


「誰かに奪われる」


屋良は真っ直ぐ見つめ返した。


「ですが」


「守ることと」


「支配することは違います」


バックナーも視線を外さない。


「その違いを決めるのは」


「理想ではない」


「現実だ」


会議室は静まり返った。


誰も口を開かなかった。


⸻


長い沈黙。


やがて屋良は小さく笑った。


「今日は」


「考え方の違いがよく分かりました」


バックナーも微笑む。


「ああ」


「私もだ」


⸻


会議終了。


資料を片付けながら、

屋良が振り返る。


「高等弁務官」


「また教育予算の相談に来ます」


バックナーは苦笑した。


「書類は少なめで頼む」


屋良も笑う。


「努力します」


ジョンが首をかしげる。


「先生まで書類を増やす側なんですね」


会議室は再び笑いに包まれた。


⸻


夕方。


仲村家。

縁側。


文がお茶を淹れていた。

バックナーは湯呑みを受け取る。


「今日は会議だったんですよね?」


「ああ」


少し間。


「面白い教師に会った」


文は微笑む。


「先生って」


「真面目な人が多いですものね」


バックナーは静かに頷く。


「真面目だった」


「だからこそ」


空を見上げる。


「沖縄を本気で考えていた」


文も夕焼けを見つめた。


「それなら」


「また会えますね」


バックナーは少し笑う。


「ああ」


「きっと何度でも」


⸻


同じ頃。


屋良も帰り道を歩いていた。

ふと振り返る。


USCAR本部。

夕日に照らされていた。


小さく呟く。


「いい人だ」


少し間。


「……だからこそ」


「難しい」


風が静かに吹き抜ける。


挿絵(By みてみん)


⸻


1952年。


沖縄には、

それぞれ違う未来を願う人々がいた。


同じ島を愛しながら。

同じ未来を望みながら。


その”進む道”だけが、

まだ違っていた。


⸻


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。