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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第五部 バックナー編 ― 平和へ結ぶ縁 ―
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第十四話 上海から来た親友

戦争は終わった。


だが、本当の意味での復興は、

まだ始まったばかりだった。


焼け野原から工房を建て直し、

もう一度「ものづくり」で生きていく。


これは、沖縄の人々が未来を取り戻す物語。

1947年。冬。


仲村工房。


焼け跡は片付いた。


しかし。


工房だけは静かだった。

織機は止まり、染料の壺も空。


文は一人、

帳簿を見つめていた。


鉛筆を置く。

小さく息を吐いた。


「……足りない」


挿絵(By みてみん)


生活費。

材料費。

人件費。


何を削っても、足りない。


東京から隆造が持ち帰った金も、

少しずつ減っている。


奥から、咳の音が聞こえる。


隆造。

尚綾。


二人とも、年を取っていた。


そして――

小さな足音。


美咲

「おかあさん」


振り向く。


幼い娘が、不安そうに見ている。


文は、慌てて笑顔を作る。


文

「大丈夫よ」


言いながら、分かっていた。


(大丈夫じゃない)


⸻


その頃。


仲村家の庭。


バックナーは薪を割っていた。

ジョンが苦笑する。


ジョン

「将軍」


「最近、本当にご近所さんですね」


バックナー

「身体を動かしている方が落ち着く」


ジョン

「書類から逃げてるだけでは?」


バックナー

「……」


⸻


その時。


静かに戸が叩かれる。

――コン、コン。


文

「……?」


戸を開ける。


そこに立っていたのは――

一人の女性。


洗練された佇まい。

穏やかな微笑。


林玉蘭(リン・ユーラン)。


挿絵(By みてみん)


文は目を見開いた。


「……玉蘭!」


二人は固く抱き合う。


⸻


縁側。


玉蘭は庭を見る。


薪を割るバックナー。

遊ぶ彩花。

歩き始めた美咲。


玉蘭は微笑む。


「……面白い家になったわね」


文も苦笑した。


「私もそう思う」


⸻


お茶が運ばれる。


しばらく沈黙。


玉蘭が静かに口を開く。


「状況は、聞いているわ」


文は、視線を落とす。


否定しない。

できない。


「このままだと、持たないわよ」


静かな声だった。


責めるでもなく、慰めるでもない。


ただの事実。


「……分かってる」


少しだけ、文の声が震える。


「あの人がいなくなって」


言葉が止まる。


「……どうしたらいいのか」


沈黙。


玉蘭は、茶を一口飲む。

そして、言った。


「簡単よ」


文は顔を上げる。


⸻


「米軍基地で商売すればいい」


空気が止まる。


その言葉を聞いた瞬間。


庭で薪を割っていたバックナーの手も止まった。


玉蘭は静かに言う。


「需要がある場所に、供給を置く」


「それだけの話よ」


文の顔が強張る。


「……でも」


「あの人は、あの戦争で……」


言い切れない。


玉蘭は、静かに返す。


「だからこそよ」


挿絵(By みてみん)


「生き残った側は、“利用する側”に回らないと」


風が、止まった気がした。


文は、何も言えない。

否定できない。


「善悪の話じゃないわ」


「仕組みの話」


「あなたは、生きるの」


「この子のために」


⸻


文は美咲を見る。


美咲は彩花と笑っている。


長い沈黙。


やがて。


「……やる」


小さな声。

だが、確かな決意。


玉蘭は静かに笑った。


「いい判断よ」


バックナーは何も言えなかった。


⸻


帰り際。


バックナーが玉蘭へ声を掛ける。


「林さん」


「あなたは我々軍人を恨まないのですか」


玉蘭は少し笑った。


「商人は」


「昨日ではなく」


「明日を見ます」


一拍置いて続ける。


「戦争は終わった」


「これからは、お客様です」


バックナーは驚いた表情を浮かべる。


「……そういう考え方もあるのか」


⸻


数か月後。


仲村工房。

再び、音が戻っていた。


染料の香り。

布を打つ音。

人の気配。


文は、立っていた。

職人たちを見渡す。


挿絵(By みてみん)


そして。


彩花

「文さん!」


「新しい布!」


美咲

「きれー!」


文が二人を見る。


(守れた)


⸻


少し離れた場所で。


バックナーも工房を見つめていた。


挿絵(By みてみん)


(戦争では何も生まれない)


(だが)


(人は、生きるために前へ進む)


やがて口を開く。


バックナー

「基地に戻るぞ」


ジョン

「え?」


バックナー

「基地内の売店に、仲村工房を登録する」


「最初の注文は俺が保証しよう」


ジョン(苦笑)

「将軍から書類仕事を言い出すとは……」


⸻


工房には。


久しぶりに、

紅型を染める音が響いていた。


⸻


(つづく)

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