第十三話 実りの季節
あの日から一年数ヶ月。
畑には実りが戻り、
子どもたちは歩き始める。
失ったものは戻らない。
それでも人は、
未来へ向かって生きていく。
1946年。秋。
米軍臨時司令部。
朝。
机の上には、
今日も書類の山が積み上がっていた。
バックナーは、一枚めくる。
また一枚。
さらに一枚。
静かに天井を見上げた。
「……スティルウェルがいない」
ジョンは苦笑しながら書類を運んでくる。
「書類の神でしたからねぇ」
バックナーは深く頷く。
「あいつの偉大さが、今になって分かる」
ジョンは笑った。
「将軍」
「今さらです」
バックナーは判子を押す。
「戻ってきてくれ……」
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昼。
村外れ。
村男Aの畑。
黄金色に実ったパイナップルが、
畑いっぱいに並んでいた。
バックナーは目を丸くする。
「見事だ……」
Aは胸を張る。
「去年は焼け野原だった」
「でも畑は応えてくれるさ」
そう言って、
一本のパイナップルを切り分けた。
「将軍」
「食べてみろ」
バックナーは一口。
甘い果汁が口いっぱいに広がる。
「……うまい」
Aは満足そうに笑った。
「だろ?」
その横では。
彩花が夢中になって食べていた。
「おいしー!」
口の周りは果汁だらけ。
文が笑いながら拭いてやる。
「ゆっくり食べなさい」
彩花は笑顔で頷いた。
「また来年も食べたい!」
Aは大きく笑う。
「もちろんだ!」
バックナーは静かに畑を見渡した。
(畑も、人も)
(ちゃんと前へ進んでいる)
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その日の夕方。
仲村家。
縁側。
美咲が立ち上がろうとしていた。
よいしょ。
ふらり。
一歩。
もう一歩。
隆造は思わず立ち上がる。
「歩いた!」
尚綾も目を潤ませる。
「歩いたさぁ……」
彩花は飛び跳ねる。
「美咲ちゃん!」
「すごーい!」
美咲は得意そうに笑った。
「あー!」
文は思わず笑う。
その目には涙が浮かんでいた。
「……あれから一年以上経ったのね」
誰も言葉を返さない。
みんな、その意味を知っていた。
尚造が亡くなった日。
そして。
美咲が生まれた日。
悲しみと希望が、
同じ日に重なっている。
バックナーは静かに帽子を胸へ当てた。
「Cloth Man」
「君の娘は」
「こんなに大きくなった」
優しい風が縁側を吹き抜ける。
庭では、
赤とんぼが静かに飛んでいた。
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その夜。
仲村家。
食卓には、
収穫したばかりのパイナップルが並んでいた。
隆造が笑う。
「去年は芋だけだった」
文も頷く。
「少しずつ豊かになってきましたね」
バックナーは彩花と美咲を見つめた。
彩花は楽しそうに笑い、
美咲はよちよち歩きで家中を歩き回っている。
バックナーは静かに微笑んだ。
(戦争では、何も育たない)
(育つのは、平和だけだ)
外では、
虫の音が秋の夜を包んでいた。
沖縄にも、
ゆっくりと実りの季節が訪れていた。
⸻
(つづく)




