第四十六話 追撃戦
八原を見送った直後。
尚造たちに残された時間は、
もう多くなかった。
追撃してくる米軍。
複雑な地形。
終わりの見えない逃避行。
そして――
最初の別れが訪れる。
1945年6月25日。
午後。
具志頭。
岩場。
諜報班。
村男たち。
Civil Affairs。
全員が足早に移動していた。
誰も口を開かない。
八原と別れてから、
まだ一時間も経っていなかった。
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隆司が振り返る。
誰もいない。
だが。
遠くから銃声が聞こえる。
尚造
「追ってきていますね」
ジョン
「掃討部隊でしょう」
小林
「八原さん……」
薬丸
「振り返るな」
小林は黙った。
薬丸
「今は前だけ見ろ」
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一行は山道へ入る。
村男Eが先頭を歩く。
突然。
E
「止まれ!」
全員が足を止めた。
地面を指差す。
細い導線。
草の下に隠された信管。
薬丸
「地雷か」
E
「しかも大量です」
全員の顔色が変わる。
周囲を調べる。
見つかる。
一つ。
二つ。
三つ。
十。
二十。
さらに奥にも続いていた。
小林
「嘘だろ……」
ジョン
「迂回は?」
E
「無理です」
「この先全部です」
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その時。
Aが前へ出た。
A
「俺たちの仕事だな」
部下たちが頷く。
すると。
Eも前へ出た。
E
「自分も残ります」
A
「E?」
E
「工兵ですから」
薬丸
「できるのか」
E
「できます」
A
「できるじゃない」
E
「隊長より丁寧です」
A
「余計なこと言うな」
少しだけ笑いが起きた。
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A
「徐州帰りを舐めるな」
E
「摩文仁帰りも舐めないでください」
A
「何だその肩書き」
E
「一晩で司令部を掘った男です」
隆司
「それ強いな」
小林
「強いですね」
少しだけ空気が軽くなる。
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しかし。
銃声は近付いている。
薬丸
「待てない」
A
「分かってる」
Aは尚造を見る。
A
「先へ行け」
E
「追いつきます」
尚造
「ですが」
A
「信じろ」
E
「村までなら迷いません」
尚造
「……分かりました」
A
「よし」
E
「任せてください」
一行は迂回路へ向かった。
その場に残ったのは、
A小隊と工兵Eだけだった。
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夕方。
地雷原。
Aたちは作業を続けていた。
汗が流れる。
導線を切る。
信管を抜く。
慎重に。
黙々と。
やがて。
最後の一発。
部下が息を吐いた。
部下
「終わりました」
A
「よし」
遠くで銃声。
Aは顔を上げる。
尚造たちのいる方向だった。
A
「時間切れだな」
部下たちは理解した。
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A
「聞け」
全員が顔を上げる。
A
「ここで小隊を解散する」
沈黙。
部下
「隊長」
A
「……まあ」
「ここまで付き合ってくれて助かった」
部下たちは少し驚く。
A
「そんな顔するな」
「一回しか言わんぞ」
部下
「珍しく隊長が真面目だ」
A
「うるさい」
少し笑う。
そして。
Aは真顔になった。
A
「散れ」
部下
「隊長……」
A
「生きろ」
「以上だ」
部下たちは敬礼した。
一人。
また一人。
別方向へ走り去る。
最後に残った一人が聞く。
部下
「隊長は?」
Aは笑った。
A
「俺は追いつく」
部下
「でしょうね」
男も去っていく。
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誰もいなくなった。
夕暮れ。
静かな地雷原。
Aは袋を担ぐ。
Eも工具袋を背負った。
A
「終わったな」
E
「終わりましたね」
A
「いや」
遠くの銃声を見る。
A
「まだ途中だ」
E
「ですね」
A
「行くぞ」
E
「はい」
A
「置いていくぞ」
E
「隊長こそ」
二人は走り出した。
尚造たちが向かった方角へ。
A
「待ってろよ」
E
「今行きます」
⸻
(つづく)




