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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第四部 尚造編 ― 時と海を越える遺志 ―
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第四十五話 東京で待ってます

沖縄戦終盤。


第32軍は解散した。


それでも八原は、

生き残った者たちと共に

具志頭の洞窟へ辿り着く。


束の間の休息。

久しぶりの笑い声。

そして、尚造たちとの再会。


だが戦争は、まだ終わっていなかった。

1945年6月24日。


夜。


具志頭の洞窟。


波の音が遠く聞こえていた。


洞窟の中では、

諜報班と村男たちが休息を取っている。


焚き火の火は小さい。


だが。


久しぶりに、

戦場らしくない空気が流れていた。


挿絵(By みてみん)



隆司は缶詰を片手に座っていた。


小林がふと尋ねる。


小林

「そういえば隆司」


「お前、何で諜報兵になれたんだ?」


隆司

「何を今さら」


薬丸

「俺も気になっていた」


「索敵」


「間合い」


「退路判断」


「普通の少年兵の動きじゃない」


隆司

「それはまあ……」


少し笑う。


隆司

「じいちゃんと尚造さんの訓練が厳しかったから」


村男A

「ああ」


「それはあるな」


隆司

「毎日走らされて」


「山登らされて」


「海泳がされて」


尚造

「健康に良いでしょう?」


隆司

「教育という名の地獄でした」



ジョン1世が興味深そうに聞く。


ジョン(通訳:尚造)

「ですが」


「尚造と秀伍さん」


「士官学校へ進学するには」


「教材や資金も必要だったはずです」


村男A

「俺も気になるな」


尚造は少し考えた。


そして笑った。


尚造

「叔父の典さんですね」


「学問が好きな人でして」


「東京から本を送ってくれました」


隆司

「学費もです」


尚造

「母と叔父たち曰く」


「祖父はかなり教育熱心だったそうです」


挿絵(By みてみん)


沈黙。


数秒後。


全員

「廃課金教育おじさん……」


尚造

「言い方」



隆司が笑う。


隆司

「綾おばぁも酔うと凄かったですよ」


尚造

「ああ……」


嫌な予感がした。


隆司

「琉球と清の冊封関係がどうとか」


「進貢船がどうとか」


「薩摩侵攻がどうとか」


村男B

「子守唄じゃないだろ」


尚造

「子守唄でした」


村男C

「何で酔っ払いが歴史講義するんだ」


ジョン

「It's interesting」

(興味深いですね)


薬丸

「興味を持つな」


洞窟に笑い声が広がった。



翌日。


1945年6月25日。


朝。


洞窟入口。


足音が近付いてくる。

全員が振り向いた。


先頭にいたのは――

八原だった。


尚造

「八原さん!」


八原

「やあ」


尚造は思わず駆け寄る。


尚造

「無事で良かったです!」


八原

「君たちもな」


後ろには。


負傷兵たち。

民間人たち。


疲れ切った表情だった。



その時。


ジョンが立ち上がる。


ジョン

「Yahara!」


八原

「……?」


八原は固まった。


挿絵(By みてみん)


ジョン

「So it really was you.」

(まさか本当に君だったとは)


八原

「ジョン!?」


尚造

「え?」


薬丸

「何だ?」


ジョンは笑う。


ジョン

「It’s been ages since our student days.」

(学生時代以来ですね)


八原

「More than ten years……」

(十年以上ぶりか)


尚造

「知り合いなんですか?」


ジョン

「We’re old friends.」

(友人です)


八原

「留学先でな」


沈黙。



八原は薬丸を見る。


挿絵(By みてみん)


八原

「薬丸くん」


薬丸

「はい」


八原

「説明してくれ」


薬丸

「俺にもよく分からん」


八原

「そうか」


二人とも真顔だった。



昼過ぎ。


洞窟の外。


突然。


銃声が響いた。


全員が凍り付く。


村男E

「まずい!」


「掃討部隊だ!」


兵たちが動く。


負傷兵たちが怯える。

民間人の悲鳴。


負傷兵

「敵だ!」


「捕まるくらいなら!」


男は拳銃を握る。


民間人たちも混乱する。


負傷兵

「どうせ殺される!」


「だったら!」


八原

「やめろ!」


怒声が響く。



八原は前へ出た。


負傷兵の肩を掴む。


八原

「落ち着け」


負傷兵

「でも!」


八原

「私はアメリカへ留学した」


「彼らは敵だ」


「だが」


「捕虜を殺す国ではない」


負傷兵

「信用できるか!」


八原

「ならば」


一歩前へ出る。


八原

「私が先に行こう」


静寂。


八原

「私を撃つなら」


「その時は好きにしろ」


誰も動けなかった。



その時。


村男Eが叫ぶ。


村男E

「抜け道だ!」


洞窟奥。

狭い岩の裂け目。


村男E

「こっちから出られる!」


薬丸

「全員行けるか?」


村男Eは首を振った。


村男E

「無理です」


「負傷兵と民間人は通れません」


沈黙。



八原は頷いた。


八原

「なら決まりだ」


尚造

「八原さん」


八原

「私は残る」


薬丸

「……」


隆司

「……」


小林

「……」


八原

「君たちは行け」


「まだやることがある」


尚造は拳を握った。


八原を見る。


八原

「東京へ行け」


尚造

「……」


八原

「未来を変えろ」


挿絵(By みてみん)


尚造は深く頭を下げた。


尚造

「東京で待ってます」


八原は笑った。


八原

「ああ」


「東京でな」


諜報班。

村男たち。

ジョンたちCivil Affairs。


全員が抜け道へ向かう。



尚造は最後に振り返った。


八原は負傷兵たちの前に立っていた。


まるで盾のように。


その姿が、岩陰に消える。


そして――


それが。

八原と尚造の“最後の会話”だった。



洞窟の外では。


夏の海が、静かに揺れていた。



(つづく)

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