第四十七話 託された者たち
誰も死んでほしくない。
けれど、
全員で同じ場所へ辿り着けるほど、
戦争は優しくなかった。
1945年6月末。
朝。
森の中。
尚造たちは山道を急いでいた。
遠くから銃声が聞こえる。
追撃は続いていた。
⸻
その時。
後方から足音が近付いてくる。
隆司
「敵!?」
薬丸
「違う」
全員が振り向く。
茂みから飛び出してきたのは――
村男のAとEだった。
A
「追いついた!」
尚造
「Aさん!」
小林
「無事だったんですか!」
AとEは息を切らしながら笑う。
E
「地雷処理は終わりました」
薬丸
「部下たちは」
少しだけ沈黙。
A
「全員解散させた」
「それぞれ帰った」
尚造
「そうですか……」
A
「だから俺たち二人だけ戻ってきた」
隆司
「普通帰ります?」
A
「面白そうだったから」
薬丸
「帰れ」
一同
「ははは」
⸻
束の間。
笑い声が広がる。
だが。
その時間は長く続かなかった。
全員の表情が変わる。
薬丸
「距離は?」
薬丸が振り返る。
小林は双眼鏡を覗く。
小林
「縮まっています」
「あと十分もすれば接触します」
ジョン
「予想以上に早いですね」
尚造
「急ぎましょう」
その時だった。
尚造の足が岩に引っ掛かる。
体勢を崩した。
隆司
「尚造さん!」
尚造
「大丈夫です」
立ち上がろうとする。
だが顔をしかめた。
足首から血が滲んでいた。
薬丸
「捻ったか」
尚造
「少しだけです」
薬丸
「少しの怪我が命取りになる」
空気が重くなる。
⸻
その時。
背後で銃声が響いた。
全員が振り返る。
敵兵だった。
森の奥。
複数人。
既にこちらを見つけている。
薬丸
「来たか」
小林
「まずい!」
諜報兵たちが前へ出た。
諜報兵
「班長」
薬丸
「……」
諜報兵
「俺たちが残ります」
隆司
「何言ってるんですか!」
諜報兵は笑った。
諜報兵
「足の速さなら俺たちの方が上です」
「尚造さんを連れて行ってください」
薬丸は数秒黙った。
そして頷く。
薬丸
「任せた」
諜報兵たち
「はい!」
尚造は立ち止まる。
諜報兵を見る。
尚造
「生きてください」
兵は笑った。
諜報兵
「もちろんです」
「東京で会いましょう」
尚造
「……はい」
兵たちは銃を構えた。
森の奥へ走る。
やがて銃声が響き始めた。
尚造たちは再び歩き出す。
⸻
昼頃。
山を越えた先。
薬丸が地図を見る。
薬丸
「この先で道が分かれる」
A
「俺たちの村まであと少しです」
B
「防空壕も近い」
尚造は考えた。
そして口を開く。
尚造
「お願いがあります」
村男たちが振り向く。
尚造
「敵兵より先に村へ行ってください」
B
「え?」
尚造
「防空壕の安全確保を」
C
「でも」
尚造
「皆さんしか頼めません」
沈黙。
Aは笑った。
A
「そういうことか」
B
「俺たちの仕事だな」
D
「任せろ」
E
「防空壕を守っておく」
C
「お前たちが来る場所だからな」
尚造は深く頭を下げた。
尚造
「お願いします」
⸻
Aは手を振った。
A
「尚造さん」
尚造
「はい」
A
「俺たち」
少し笑う。
A
「結構楽しかったですよ」
B
「東京人とアメリカ人と逃げ回るなんて」
D
「人生で一回で十分だけどな」
全員が笑った。
Aが先頭へ出る。
A
「行くぞ」
村男たち
「おう!」
五人は駆け出した。
森の中へ消えていく。
隆司
「行っちゃいましたね」
尚造
「はい」
薬丸
「これで村は守られる」
ジョン
「良い人たちでした」
小林
「ええ」
尚造は遠ざかる背中を見つめた。
兵学校の教え子たち。
だが。
今では仲間だった。
そして。
その背中もまた、
二度と見ることはなかった。
⸻
夕方。
残された者たちは再び歩き始める。
尚造。
薬丸。
隆司。
小林。
ジョン。
そして数名。
八原はいない。
村男たちもいない。
仲間は少しずつ減っていた。
だが。
まだ歩みは止まらない。
⸻
(つづく)




