第四十三話 呉越同舟――尚造、敵兵とオタク友達になる
沖縄戦は終わりに近づいていた。
だが、
尚造たちの戦いはまだ終わらない。
東京へ。
吉田茂へ。
そして大本営へ。
未来を知る男は、
敵軍人を味方に引き込もうとしていた。
1945年6月下旬。
南部。
具志頭。
海岸近くの洞窟。
波の音が遠く聞こえる。
洞窟の中では、
諜報班と兵たちが休息を取っていた。
第32軍は消えた。
だが、
彼らはまだ生きていた。
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洞窟の奥。
地図が広げられている。
薬丸。
尚造。
隆司。
小林。
そして村男たち。
薬丸が口を開く。
薬丸
「さて」
「これからどうする」
全員の視線が尚造へ向く。
尚造
「東京へ行きます」
迷いはなかった。
尚造
「まず村へ戻ります」
「妻と子どもの顔を見た後」
「両親から吉田茂さんの連絡先を聞きます」
隆司
「本当に知り合いなんですか」
尚造
「父のお客さんです」
小林
「さらっと恐ろしいことを言わないでください」
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尚造は地図を指差す。
尚造
「その後」
「船で鹿児島」
「鉄道で東京」
「吉田さんを味方につけます」
薬丸
「その先は」
尚造
「大本営です」
沈黙。
尚造
「政治家」
「軍上層部」
「全員を同じ部屋へ集めます」
薬丸
「なるほど」
尚造
「そして」
「未来を見せます」
静かな声だった。
⸻
だが。
薬丸は腕を組む。
薬丸
「問題がある」
尚造
「ありますね」
薬丸
「敵艦隊だ」
洞窟内が静かになる。
小林
「相手はあのニミッツですよ」
隆司
「ニミッツ?」
小林
「チェスター・W・ニミッツ」
「米海軍太平洋艦隊の司令長官です」
薬丸
「沖縄周辺は完全封鎖だ」
小林
「船で出た瞬間」
「終わりですね」
尚造
「うーん……」
⸻
その時だった。
洞窟入口から足音が聞こえる。
全員が振り向く。
現れたのは――
ジョン1世だった。
ジョン
「Hello.」
(やあ皆さん)
隆司
「出た!」
小林
「米軍!」
薬丸
「もう慣れろ」
ジョンは苦笑する。
ジョン(通訳:尚造)
「安心してください」
「今日は撃ちません」
隆司
「今日はって何ですか」
ジョンは荷物を下ろした。
ジョン
「実は少し状況が変わりまして」
薬丸
「何だ」
ジョン
「バックナー将軍が」
「瀕死の重傷を負いました」
静寂。
薬丸
「……そうか」
ジョン
「現在の米軍は再編中です」
「現場の統制も完全ではありません」
「Civil Affairsも独自行動が増えています」
尚造
「文化財保護班ですね」
ジョン
「はい」
「我々は今」
「文化財保護を最優先に動いています」
⸻
尚造は考え込む。
数秒。
十数秒。
そして。
顔を上げた。
尚造
「……いいこと思いつきました」
小林
「嫌な予感しかしません」
薬丸
「俺もだ」
⸻
尚造はジョンを見る。
尚造
「ジョンさん」
ジョン
「はい?」
尚造
「船」
ジョン
「Ship?」
尚造
「乗せてもらえます?」
静止。
全員
「…………」
ジョン
「はい?」
尚造
「僕たち」
「東京へ行きたいんです」
ジョン
「待ってください」
「なぜ私が」
尚造
「停戦を実現したいからです」
ジョンの表情が変わる。
尚造
「戦争が終われば」
「本土の寺も」
「城も」
「文化財も守れます」
沈黙。
ジョンは腕を組む。
そして。
少し笑った。
ジョン
「なるほど」
「それは確かに」
「文化財保護ですね」
尚造
「ですよね?」
ジョン
「ですよね」
小林
「何で通じるんですか」
ジョン
「分かりました」
「責任は持てませんが」
「船は用意します」
隆司
「えっ」
薬丸
「本当に?」
小林
「通った」
尚造
「ありがとうございます!」
ジョン
「その代わり」
「東京で見たいものがあります」
尚造
「何です?」
ジョンは目を輝かせる。
ジョン
「紅型です」
尚造
「!!」
⸻
数分後。
洞窟の隅。
尚造とジョンが紅型を広げていた。
ジョン
「これは素晴らしい……!」
尚造
「でしょう!?」
ジョン
「この配色!」
尚造
「そこ分かります!?」
ジョン
「首里王府文化の系譜ですね!」
尚造
「そうです!!」
ジョン
「最高です!」
尚造
「最高です!」
二人は固い握手を交わした。
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少し離れた場所。
薬丸たちが眺めている。
隆司
「仲良くなってません?」
小林
「仲良くなってますね」
薬丸
「敵味方とは何だったんだ」
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夕方。
薬丸がジョンの前へ立つ。
しばらく見つめる。
薬丸
「敵軍人に礼を言う日が来るとはな」
ジョン
「私もです」
薬丸は小さく敬礼した。
ジョンも返礼する。
夕陽が海を照らしていた。
⸻
第32軍は終わった。
だが。
彼らの戦いは終わらない。
東京へ。
未来を変えるために。
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そして――
2045年へ。
⸻
(つづく)




