第四十話 いざ、広島へ
太平洋戦争から100年。
沖縄で見つかった一枚の紅型布団は、
ついに仲村家の外へ出た。
向かう先は、広島。
そこには、
沖縄ともアメリカとも違う、
もう一つの戦争の記憶が残っていた。
尚造が遺したものは、
家族の秘密なのか。
それとも世界の記憶なのか。
日本戦後100年展、準備開始。
2045年7月中旬。
仲村家。
朝。
玄関には、
大きな輸送ケースが置かれていた。
『CA-OKN-1945-001』
その番号は、
もう誰にとっても特別だった。
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継は靴を履く。
澪
「父さん」
継
「ん?」
澪
「絶対帰ってきてよ」
継は少し笑った。
継
「海外出張じゃないんだから」
澪
「でも何か嫌な予感する」
文造
「分かる」
継
「お前らな」
健太がケースを軽く叩く。
健太
「工房は任せろ」
彩乃
「ただし炎上したら連絡する」
継
「怖いこと言うな」
彩乃
「事実だから」
健太
「今回はマジで全国ニュース級だぞ」
継
「知ってる」
ジョンが玄関へ現れる。
アロハシャツ姿。
サングラス。
どう見ても観光客だった。
継
「副司令」
ジョン
「何だ」
継
「その格好で広島行くのか」
ジョン
「問題あるか?」
継
「ありすぎる」
その後ろから。
スーツ姿の男が現れる。
林明浩。
林
「安心しろ」
継
「?」
林
「俺がもっと怪しい」
継
「否定できない」
澪
「行ってらっしゃい」
文造
「広島土産よろしく」
継
「何で観光旅行扱いなんだ」
ジョン
「牡蠣」
林
「もみじ饅頭」
継
「お前らもか」
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数時間後。
那覇空港。
巨大ケースは、
特別輸送扱いとなっていた。
警備員。
文化庁職員。
米軍担当者。
全員が妙に真剣である。
林
「布団だよな?」
継
「布団だな」
林
「人生で一番警備が厳しい布団を見てる」
ジョン
「沖縄戦資料より厳重かもしれない」
継
「比較対象がおかしい」
ジョンはケースを見る。
ジョン
「この布団は」
少し考える。
ジョン
「国家予算を吹き飛ばせる」
林
「確かに」
継
「納得するな」
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場面転換。
岩国基地。
C-130J。輸送機。
ケースはさらに積み替えられていた。
林
「沖縄から広島へ行くだけなのに」
ジョン
「国家案件だからな」
継
「まだ実感がない」
ジョンは静かに言う。
「その感覚は正しい」
継
「?」
ジョン
「俺も祖父の遺品だと思っていた」
ケースを見る。
「まさか世界史になるとは思わなかった」
誰も笑わなかった。
冗談ではないからだ。
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夕方。
広島。
車列が市内へ入る。
窓の外。
平和な街並み。
観光客。
学生。
川。
橋。
継は静かに外を見ていた。
初めて来る街だった。
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やがて。
車が止まる。
目の前。
原爆ドーム。
継は言葉を失った。
写真では見たことがある。
映像でも見たことがある。
だが。
実際に見るのは初めてだった。
ジョンが隣へ立つ。
ジョン
「初めてか」
継
「うん」
風が吹く。
静かな夕暮れ。
継
「思ったより」
「小さいな」
ジョンは頷く。
ジョン
「そうだな」
継
「でも」
視線を上げる。
崩れたドーム。
残された壁。
夕陽。
継
「重い」
ジョンは答えなかった。
答える必要がなかった。
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その時。
背後から声がした。
「やっと来たか」
振り返る。
そこには。
スーツ姿の御厨正道。
そして。
リン・チャンの姿があった。
御厨
「待っていたよ」
チャン
「お久しぶりです」
継
「御厨さん」
「チャンさん」
継は小さく頭を下げる。
「日米地位協定紅型の件では」
「お世話になりました」
チャンは微笑んだ。
御厨は疲れた顔で笑った。
御厨
「今回の方が厄介だがね」
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全員の視線が、輸送ケースへ向く。
『CA-OKN-1945-001』
100年間、沖縄で眠っていた布。
それは今、広島へ到着した。
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そして。
世界会議が始まる。
⸻
(つづく)




