第三十七話 最後の晩餐
1945年6月18日。
諜報班は、
怪物の情報を抱えたまま
司令部へ帰還する。
だが、彼らを待っていたのは――
想像以上に静かな終わりだった。
1945年6月18日。
南部。
摩文仁。
第32軍司令部。
諜報班が壕へ戻った時。
そこにあったのは、
出撃前とは別の場所だった。
静かだった。
あまりにも静かだった。
兵が少ない。
担架だけが増えている。
弾薬箱は空。
通信兵たちの声にも力がない。
薬丸は足を止めた。
尚造も気付く。
終わりが近い。
誰も口にしないだけだった。
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司令部中央。
牛島。
長。
八原。
将校たちが集まっている。
机の上には、
尚造が持ってきた一通の手紙。
長
「バックナーからだ」
薬丸
「降伏勧告ですか」
長
「そうだ」
誰も驚かなかった。
沈黙。
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その時。
入口の布が開いた。
補給兵の村男Dだった。
泥だらけだった。
敬礼する。
D
「失礼します」
牛島
「どうした」
Dは数秒黙った。
そして。
静かに報告した。
D
「……補給が切れました」
誰も動かなかった。
D
「残っていた水は」
「一般兵へ配布しました」
「負傷兵の分も終わっています」
沈黙。
D
「以上です」
それだけだった。
補給兵としての仕事は終わった。
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Dは背嚢を下ろす。
中から缶詰を取り出す。
そして泡盛を一本。
D
「……これが“最後の晩餐”です」
牛島は少しだけ笑った。
牛島
「ありがとう」
Dは敬礼し、静かに退室した。
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壕の中に残る沈黙。
牛島は缶詰を見つめる。
そして。
ゆっくり顔を上げた。
牛島
「諸君」
全員が見る。
牛島
「第32軍は」
一拍。
牛島
「本日をもって解散する」
誰も声を出さなかった。
終わった。
それだけだった。
長が目を閉じる。
八原は俯く。
薬丸は立ったまま動かない。
牛島
「八原くん」
八原
「はっ」
牛島
「君は生きろ」
八原
「……」
牛島
「負傷兵を連れて出ろ」
「民間人もだ」
八原
「しかし――」
牛島
「命令だ」
八原
「……了解しました」
八原は敬礼した。
その姿勢だけは、
開戦の日と変わらなかった。
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次に。
牛島は尚造を見る。
牛島
「仲村くん」
尚造
「はい」
尚造は前へ出た。
尚造
「東京へ向かいます」
全員が見る。
尚造
「大本営」
「政治家」
一拍。
尚造
「全員に見せたいものがあります」
牛島は静かに聞いていた。
尚造
「このままでは」
「日本がなくなります」
沈黙。
牛島は目を閉じた。
そして。
牛島
「行け」
尚造
「……」
牛島
「責任は私が取る」
尚造は深く頭を下げた。
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夜。
出発準備。
八原が薬丸へ近づく。
八原
「私は少し遅れる」
薬丸
「負傷兵ですか」
八原
「ああ」
「民間人もいる」
薬丸
「了解しました」
その時。
尚造が振り返った。
尚造
「八原さん」
八原
「ん?」
尚造
「具志頭の洞窟で」
少し笑う。
尚造
「合流しましょう」
八原も笑った。
八原
「ああ」
「また後で」
誰も疑わなかった。
また会えると。
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1945年6月22日。
夜。
司令部。
残ったのは、
牛島と長だけだった。
机の上。
缶詰。
泡盛。
長
「牛島」
牛島
「何だ」
長
「俺の切腹はまだか?」
牛島は少し考えた。
牛島
「馬鹿を言うな」
長
「そうか」
牛島は缶詰を開ける。
牛島
「……“俺たち”だろ」
長が笑った。
牛島
「すき焼き缶」
「食うか?」
長
「ああ」
二人は笑った。
友として。
軍人として。
そして。
長い戦争の終わりを知る者として。
缶詰の蓋が開く。
泡盛が注がれる。
そして誰も、
明日の話をしなかった。
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この夜。
第32軍は終わった。
だが。
尚造たちの戦いは、
まだ終わらない。
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そして――
2045年へ。
⸻
(つづく)




