第三十五話 太陽が落ちる日
1945年6月。
諜報班は、
ついに“怪物”の正体へ辿り着く。
それは兵器なのか。
計画なのか。
それとも――人類そのものなのか。
尚造たちは、
未来を変えるための最初の会議を始める。
1945年6月。
南部戦線。
安全地帯。
小さな作戦用テント。
外では砲声が続いている。
だが、この場所だけは妙に静かだった。
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尚造
「Operation Downfall――」
「米軍の本土侵攻作戦について、ご報告いたします」
薬丸は黙って頷く。
その眼差しは、
すでに“覚悟を聞く側”のものだった。
尚造
「米軍はまず、沖縄を完全制圧します」
「港湾と飛行場を復旧し」
「ここを本土侵攻のための“補給基地”に変える」
地図の上を指が滑る。
尚造
「その後、九州南部へ上陸」
「さらに関東平野へ進出」
薬丸
「……本土決戦か」
尚造
「はい」
薬丸
「だが、それだけなら日本軍の想定内だ」
「君は違うものを見たんだろう?」
沈黙。
尚造は静かに頷いた。
尚造
「本当に恐ろしいのは――」
「Manhattan Projectです」
薬丸
「……名前だけは聞いたことがある」
「それは何だ?」
尚造は言葉を探した。
そして。
静かに告げる。
尚造
「……“太陽”です」
薬丸
「…………はい?」
尚造
「“太陽”が、落ちます」
薬丸は数秒、言葉を失った。
薬丸
「……人類は」
「“太陽を生み出した”というのかね?」
尚造
「完成時期までは分かりません」
「ですが」
「アメリカの科学者なら――」
「辿り着いても不思議ではありません」
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尚造がそれを知らないのは、当然だった。
“太陽を落とす実験”は、
まだ行われていない。
――1945年7月16日。
その日まで、あと僅かだった。
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尚造
「……あまりにも狂っています」
「部下には」
「マンハッタン島までしか伝えていません」
薬丸は静かに息を吐く。
薬丸
「……その判断は正しい」
沈黙。
薬丸
「尚造」
「これからどうする?」
尚造は地図から顔を上げた。
尚造
「東京へ行きます」
薬丸は遮らない。
尚造
「大本営」
「政治家」
「全員を同じ部屋へ集めます」
そして。
地図を握り締めた。
尚造
「この“問い”を、机へ叩きつけます!」
「それでも戦争を続けるのか、と」
薬丸は黙って聞いていた。
反対しなかった。
それが、
尚造の戦い方だと知っていたから。
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同時刻。
別のテント。
隆司。小林。
数名の諜報兵たちが集まっていた。
重い空気。
誰も落ち着かない。
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隆司
「……やっぱ変ですよ」
小林
「尚造さんですか」
隆司
「うん」
「今までと違う」
諜報兵
「確かにな」
「戦車見ても平気だったし」
「艦砲射撃でも普通だった」
「今回は顔色が違う」
⸻
沈黙。
諜報兵の一人が言う。
諜報兵
「マンハッタン島だからな」
「島ごと動く巨大上陸艇とか?」
隆司
「島ごと来るのかよ」
小林
「それならまだ平和です」
少しだけ笑いが起きる。
だが、すぐ消えた。
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小林は手帳を見つめる。
小林
「マンハッタン計画」
「ロスアラモス」
「研究施設」
「科学者」
「軍の極秘指定」
静かな声。
小林
「少なくとも」
「何か兵器があるのは間違いない」
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隆司は黙ったまま。
そして。
ぽつりと呟いた。
隆司
「俺さ」
「ずっと考えてたんだ」
全員が見る。
隆司
「尚造さん」
「戦車見ても平気だった」
「首里城が燃えても、まだ冷静だった」
「でも今回は違う」
沈黙。
隆司
「“日本が滅ぶ計画”なんじゃないか?」
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静寂。
誰も否定できない。
その時。
テントの入口が開いた。
風が吹き込む。
全員が振り向く。
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そこにいたのは。
尚造と薬丸だった。
尚造
「……その通りです」
誰も動けなかった。
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尚造は中へ入り、静かに座る。
尚造
「皆さんには」
「話さなければなりません」
隆司
「……何なんですか」
尚造
「まだ推測です」
「ですが」
「もし正しければ――」
一拍。
尚造
「“戦争の形そのもの”が変わります」
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誰も言葉を発しない。
尚造は続ける。
尚造
「だからこそ」
「判断を誤るわけにはいきません」
薬丸が口を開く。
薬丸
「まず司令部だ」
「俺たちは諜報兵に過ぎない」
「判断する立場じゃない」
尚造
「……牛島司令官ですか」
薬丸
「ああ」
「鹿児島の人間だ」
「少なくとも」
「最後まで聞く耳は持っている」
尚造は静かに頷いた。
薬丸
「牛島司令官に委ねろ」
「東京へ行くかどうかは」
「その後だ」
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長い沈黙。
そして尚造は立ち上がる。
尚造
「……分かりました」
「まずは」
「司令部へ報告します」
⸻
この夜。
沖縄戦の片隅で。
一人の紅型職人と、
数人の諜報兵が知った。
戦争が終わる方法ではない。
戦争そのものを変えてしまう
“怪物”の存在を。
⸻
そして。
その報告は、
やがて牛島満の元へ届く。
⸻
(つづく)




