第三十一話 太陽を縫い留める男
彼は、泣かなかった。
叫ばなかった。
逃げなかった。
ただ――
仕事をした。
テントの中。
外では、
隆司たちが必死に銃を構えている。
隆司
「尚造さん!」
「敵が周囲をうろついてます!」
小林
「今すぐ移動した方が――」
尚造
「……すみませんが」
尚造は、
布団を抱きしめたまま、言った。
尚造
「15分間、一人にしてください」
一同、言葉を失う。
小林
「……外」
「敵がウヨウヨいますが……」
一拍。
隆司
「俺たちが盾になります」
隆司は、迷わなかった。
隆司
「一人たりとも、この部屋には入れません」
「尚造さんは――」
「仕事に集中してください」
尚造は、小さく頭を下げた。
尚造
「……ありがとうございます」
⸻
テントの中。
尚造は、
布団を胸に抱きしめたまま、
深く、深く謝った。
尚造
「……ごめんなさい」
「こんなものを、見せてしまって……」
ゆっくりと、布団を広げる。
それは、まだ“怪物”ではなかった。
⸻
尚造は、裁縫箱を開く。
取り出したのは――
赤い糸が通された針。
尚造
「……解析開始」
低く、独り言のように。
文字。
円。
配置。
尚造の脳内で、
書類が“地図”に変換されていく。
尚造(心の声)
(通常の空爆ではない……)
(一点集中……)
(高度……)
(爆心……)
(……太陽だ)
⸻
尚造の手が、止まる。
呼吸が、乱れる。
尚造
「……太陽を……落とす……?」
針を持つ手が、
致命的に震えた。
尚造
「……それでも」
彼は、針を布に刺した。
赤い糸が、円を描く。
⸻
外から、銃声。怒号。
隆司
「くっ……!数が多い!」
小林
「尚造さん、まだですか!」
尚造は、ハッと我に返る。
尚造
「……っ!」
布団を畳む。
針をしまう。
赤い糸で縫われた“円”が、
静かに残された。
⸻
尚造は、立ち上がる。
そして――
テントの外へ。
尚造
「すみません、お待たせしました!」
次の瞬間。
尚造は、
まるで“いつもの尚造”のように、
敵兵を蹴散らした。
冷静に。
正確に。
無慈悲に。
戦闘が、収束する。
隆司
「……尚造さん……?」
尚造は、
何事もなかったかのように微笑んだ。
尚造
「外、大丈夫でしたか?」
誰も、返事ができなかった。
⸻
この時、
尚造はまだ知らなかった。
自分が縫い留めた“円”が、
未来で再び開かれることを。
そして――
それを見つめるのが、
“継ぐ者”であることを。
⸻
(つづく)




