第三十話 恐怖の怪物発見――名前を呼んではいけない
それは、牙も爪も持たなかった。
書類だった。
ただの紙だった。
1945年6月。
快晴の朝。
米軍。本国陣営跡地。
――置き忘れられた一角。
仲村班は、
慎重に、慎重に前進していた。
隆司
「……ここ、やけに静かですね……」
尚造
「ええ」
「だからこそ、気をつけましょう」
⸻
テントの奥。
そこにあったのは、
"異様に厳重なケース"だった。
金属製。
鍵が三重。
輸送用の注意書き。
武器ではない。
弾薬でもない。
だが――
尚造は、その場で立ち止まった。
尚造
「……開ける前に、
全員、深呼吸してください」
隆司
「え?」
尚造
「理由は、後で説明します」
⸻
ケースが開く。
中にあったのは――
“書類”の束。
丁寧に綴じられ、
表紙には、英字が印刷されていた。
隆司
「えっと……」
「えむ」
「えー」
「えぬ」
「えいち……?」
小林
「ニューヨークにある島の名前ですね」
「研究機関か何かでしょうか」
間。
小林
「題名は分かるけど……」
隆司
「次のページの文字」
「小さくて読めない……」
⸻
その瞬間。
尚造の、指が震えた。
誰にも気づかれないほど。
わずかに。
尚造
「……それ以上、読まなくていい」
声が、初めて揺れた。
隆司
「尚造さん……?」
⸻
尚造は、
一歩下がった。
二歩。
三歩。
まるで――
書類から距離を取るように。
尚造(心の声)
(文字だ……)
(円だ……)
(地名だ……)
(……広島)
呼吸が、止まる。
(違う)
(まだだ)
(まだ落ちていない)
視界が、
一瞬、白くなる。
尚造
「……っ」
膝をつきそうになるのを、
辛うじて堪える。
手が。
“致死量の情報"を、拒絶している――
隆司
「尚造さん!?」
小林
「大丈夫ですか!?」
尚造
「……大丈夫です」
だが――
誰の目にも、
そうは見えなかった。
⸻
尚造は、
震える手で書類を閉じる。
まるで――
怪物を封じるように。
そして、静かに告げた。
尚造
「……これは」
「僕が一人で処理します」
「皆さんは、外で警戒を」
誰も、逆らえなかった。
⸻
それは、
兵器ではなかった。
計画だった。
そして――
名前を持っていた。
⸻
怪物の名前は――
Manhattan Project
マンハッタン計画。
⸻
(つづく)




