第二十七話 戦後の夢――夜のパジャマパーティー
戦争の中にも、夜は来る。
銃声が止み、
命令が届かず、
ただ「生きている」時間だけが残る夜。
人は、その隙間で
未来の話をしてしまう。
夜。
雨音。
テントの中。
小さな灯り。
湿った空気の中に、
不思議と穏やかな時間があった。
尚造が持ち込んだ――
“ただの布団”。
隆司
「……なんか」
「修学旅行みたいですね」
小林
「戦地でそれ言うの、
だいぶ頭おかしいですけど」
諜報兵
「でも……嫌いじゃない」
小さな笑い声。
薬丸は、
軍刀の手入れをしながら
その様子を見ていた。
何も言わない。
ただ、見守る。
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尚造は、布団の上に座り、
少し照れながら口を開いた。
尚造
「……もし、戦争が終わったら」
空気が、静かに変わる。
尚造
「妻と子どもと一緒に、
日本全国を旅したいんです」
隆司
「旅行……?」
尚造
「はい」
「まずは――桜島」
「次に、厳島神社」
「それから、箱根温泉で……」
少しだけ笑う。
「締めは、雷門ですね」
小林
「……欲張りですね」
尚造
「家族旅行って、そういうものでしょう?」
「戦争中は地図ばっかり見てきたから……」
「今度は、歩くための地図を描きたいんです」
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静寂。
一人、また一人と口を開く。
隆司は少し考えた。
隆司
「俺は……」
「海の見える町で暮らしたいですね」
尚造
「海ですか」
隆司
「はい」
「もう戦場の海は見飽きたんで」
少し笑う。
「次は、魚を獲る船とか」
「荷物を運ぶ船とか」
「そういう平和な海を見たいです」
小林
「意外と普通ですね」
隆司
「普通が一番だろ」
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小林は手帳を閉じた。
小林
「僕は……」
少しだけ考える。
「歴史の残る場所で働いてみたいです」
隆司
「先生?」
小林
「違う」
「古い物とか」
「記録とか」
「誰かが残したものを整理する仕事」
尚造
「向いてそうですね」
小林
「たぶん」
「戦争が終わったら」
「ちゃんと残さないといけないことが、
たくさんある気がするので」
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諜報兵は少し困った顔をした。
諜報兵
「俺は難しいこと分からんな」
隆司
「じゃあ何したいんだよ」
諜報兵
「畑かな」
全員が見る。
諜報兵
「親父の畑」
「戦争始まってから、放ったらかしなんだ」
少し笑う。
「帰ったら耕して」
「嫁もらって」
「普通に暮らせれば十分だ」
静かな声だった。
だが。
その夢は、
この場の誰よりも現実的だった。
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薬丸は、ふっと微笑んだ。
「……いい夢だ」
尚造が振り返る。
「薬丸さんは?」
薬丸
「俺は――」
一瞬、言葉を探す。
「君たちが、そういう話をできる国に戻すことだ」
誰も笑わなかった。
ただ、静かに頷いた。
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夜は深まり、
やがて会話は途切れる。
布団に潜り込み、
誰かの寝息が聞こえ始める。
尚造は、布団の縁を軽く撫でた。
赤い糸は、使われていない。
「……今日は、使わずに済んだな」
その声は、とても穏やかだった。
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この夜。
誰も気づかなかった。
尚造が口にした旅の順路が――
“怪物の侵攻ルート”であることに。
⸻
(つづく)




