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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第四部 尚造編 ― 時と海を越える遺志 ―
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第二十七話 戦後の夢――夜のパジャマパーティー

戦争の中にも、夜は来る。


銃声が止み、

命令が届かず、

ただ「生きている」時間だけが残る夜。


人は、その隙間で

未来の話をしてしまう。

夜。


雨音。

テントの中。

小さな灯り。


湿った空気の中に、

不思議と穏やかな時間があった。


尚造が持ち込んだ――

“ただの布団”。


挿絵(By みてみん)


隆司

「……なんか」


「修学旅行みたいですね」


小林

「戦地でそれ言うの、

 だいぶ頭おかしいですけど」


諜報兵

「でも……嫌いじゃない」


小さな笑い声。


薬丸は、

軍刀の手入れをしながら

その様子を見ていた。


何も言わない。

ただ、見守る。



尚造は、布団の上に座り、

少し照れながら口を開いた。


尚造

「……もし、戦争が終わったら」


空気が、静かに変わる。


尚造

「妻と子どもと一緒に、

 日本全国を旅したいんです」


隆司

「旅行……?」


尚造

「はい」


「まずは――桜島」


「次に、厳島神社」


「それから、箱根温泉で……」


少しだけ笑う。


「締めは、雷門ですね」


小林

「……欲張りですね」


尚造

「家族旅行って、そういうものでしょう?」


「戦争中は地図ばっかり見てきたから……」


「今度は、歩くための地図を描きたいんです」



静寂。


一人、また一人と口を開く。


隆司は少し考えた。


隆司

「俺は……」


「海の見える町で暮らしたいですね」


尚造

「海ですか」


隆司

「はい」


「もう戦場の海は見飽きたんで」


少し笑う。


「次は、魚を獲る船とか」


「荷物を運ぶ船とか」


「そういう平和な海を見たいです」


小林

「意外と普通ですね」


隆司

「普通が一番だろ」



小林は手帳を閉じた。


小林

「僕は……」


少しだけ考える。


「歴史の残る場所で働いてみたいです」


隆司

「先生?」


小林

「違う」


「古い物とか」


「記録とか」


「誰かが残したものを整理する仕事」


尚造

「向いてそうですね」


小林

「たぶん」


「戦争が終わったら」


「ちゃんと残さないといけないことが、

 たくさんある気がするので」



諜報兵は少し困った顔をした。


諜報兵

「俺は難しいこと分からんな」


隆司

「じゃあ何したいんだよ」


諜報兵

「畑かな」


全員が見る。


諜報兵

「親父の畑」


「戦争始まってから、放ったらかしなんだ」


少し笑う。


「帰ったら耕して」


「嫁もらって」


「普通に暮らせれば十分だ」


静かな声だった。


だが。


その夢は、

この場の誰よりも現実的だった。



薬丸は、ふっと微笑んだ。


「……いい夢だ」


尚造が振り返る。


「薬丸さんは?」


薬丸

「俺は――」


一瞬、言葉を探す。


「君たちが、そういう話をできる国に戻すことだ」


誰も笑わなかった。

ただ、静かに頷いた。


挿絵(By みてみん)



夜は深まり、

やがて会話は途切れる。


布団に潜り込み、

誰かの寝息が聞こえ始める。


尚造は、布団の縁を軽く撫でた。


赤い糸は、使われていない。


「……今日は、使わずに済んだな」


その声は、とても穏やかだった。



この夜。


誰も気づかなかった。


尚造が口にした旅の順路が――


“怪物の侵攻ルート”であることに。



(つづく)

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