第二十八話 快晴の朝――二手に分かれる道
朝は、等しく訪れる。
昨日までの会話も。
笑い声も。
未来の約束も。
――何事もなかったかのように。
それが、戦場の朝だ。
快晴。
雲ひとつない空が、
南部の丘を明るく照らしていた。
雨に濡れていた地面は乾き、
草の匂いが立ち上る。
まるで――
行楽日和だった。
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諜報班は、静かに装備を整えていた。
銃の点検。
地図の確認。
水筒の中身。
誰も無駄口を叩かない。
昨夜の空気が、嘘のようだった。
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薬丸は地図を広げた。
赤鉛筆で描かれた米軍陣地。
その中央に、
一つの丸が付けられている。
薬丸
「本命はここだ」
隆司
「司令部ですか」
薬丸
「ああ」
「バックナー将軍だ」
班員たちが地図を覗き込む。
薬丸
「だが今日は違う」
別の地点を指差す。
「昨日の観測で確認した」
「バックナーは前線視察に出ている」
小林
「つまり……」
薬丸
「司令部を見ても意味がない」
静かな声だった。
薬丸
「今、探るべきは後方だ」
指先が移動する。
「Civil Affairs」
「本国視察団」
「補給関係」
「報道関係」
「戦う連中じゃない」
一拍。
「だからこそ警戒が薄い」
尚造が地図を見る。
薬丸
「敵は強い」
「だが後方には必ず綻びがある」
尚造
「家の裏口みたいなものですね」
「人は正面を固めますから」
薬丸
「ああ」
尚造
「でも……」
「たまに裏口の方が怖い家もあります」
一瞬の沈黙。
薬丸
「?」
尚造
「何でもありません」
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薬丸は全員を前に立たせ、
簡潔に告げる。
薬丸
「ここより、二手に分かれる」
地図を広げ、
二本の線を指でなぞる。
「第一班――薬丸班」
「西側から、Civil Affairsの陣営を探る」
一拍。
「第二班――仲村班」
尚造は、静かに一歩前に出た。
「東側から、本国陣営の動向を探れ」
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一瞬、
班員たちの視線が交差する。
隆司
「……尚造さん」
尚造
「大丈夫ですよ」
いつもの、柔らかい笑顔。
「昨日も言いましたよね?」
「有益な情報、掴んできますって」
小林
「……最後のチャンスですね」
尚造
「ええ」
「八原さんとの約束は守ります」
薬丸は、尚造をじっと見つめる。
言葉は少ない。
「……無理はするな」
尚造
「はい」
「でも……」
少し間を置いて、付け足す。
「地図の空白は、気持ち悪いので」
薬丸
「……」
何も言わず、ただ頷いた。
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それぞれの班が、
別々の方向へ歩き出す。
振り返る者はいない。
それが、この班のやり方だった。
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隆司は、
尚造の背中を追いながら、
ふと口にする。
隆司
「尚造さん……」
「昨日の旅行の話、本気ですよね?」
尚造
「もちろんです」
「雷門で写真撮って」
「箱根で温泉入って……」
一瞬だけ、声が柔らぐ。
「……桜島は、少し長めに滞在したいな」
隆司
「……いいですね」
その会話が、"最後の日常”だった。
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この日。
薬丸は、
紅型タオルを取り戻した。
だが――
尚造は違った。
彼らが踏み込む先にあったのは、
敵陣でも、罠でもない。
――“怪物”だった。
⸻
(つづく)




