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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第四部 尚造編 ― 時と海を越える遺志 ―
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第二十八話 快晴の朝――二手に分かれる道

朝は、等しく訪れる。


昨日までの会話も。

笑い声も。

未来の約束も。


――何事もなかったかのように。


それが、戦場の朝だ。

快晴。


雲ひとつない空が、

南部の丘を明るく照らしていた。


雨に濡れていた地面は乾き、

草の匂いが立ち上る。


まるで――

行楽日和だった。



諜報班は、静かに装備を整えていた。


銃の点検。

地図の確認。

水筒の中身。


誰も無駄口を叩かない。


昨夜の空気が、嘘のようだった。



薬丸は地図を広げた。


赤鉛筆で描かれた米軍陣地。


その中央に、

一つの丸が付けられている。


薬丸

「本命はここだ」


隆司

「司令部ですか」


薬丸

「ああ」


「バックナー将軍だ」


班員たちが地図を覗き込む。


薬丸

「だが今日は違う」


別の地点を指差す。


「昨日の観測で確認した」


「バックナーは前線視察に出ている」


小林

「つまり……」


薬丸

「司令部を見ても意味がない」


静かな声だった。


薬丸

「今、探るべきは後方だ」


指先が移動する。


「Civil Affairs」


「本国視察団」


「補給関係」


「報道関係」


「戦う連中じゃない」


一拍。


「だからこそ警戒が薄い」


挿絵(By みてみん)


尚造が地図を見る。


薬丸

「敵は強い」


「だが後方には必ず綻びがある」


尚造

「家の裏口みたいなものですね」


「人は正面を固めますから」


薬丸

「ああ」


尚造

「でも……」


「たまに裏口の方が怖い家もあります」


一瞬の沈黙。


薬丸

「?」


尚造

「何でもありません」



薬丸は全員を前に立たせ、

簡潔に告げる。


薬丸

「ここより、二手に分かれる」


地図を広げ、

二本の線を指でなぞる。


「第一班――薬丸班」


「西側から、Civil Affairsの陣営を探る」


一拍。


「第二班――仲村班」


尚造は、静かに一歩前に出た。


挿絵(By みてみん)


「東側から、本国陣営の動向を探れ」



一瞬、

班員たちの視線が交差する。


隆司

「……尚造さん」


尚造

「大丈夫ですよ」


いつもの、柔らかい笑顔。


「昨日も言いましたよね?」


「有益な情報、掴んできますって」


小林

「……最後のチャンスですね」


尚造

「ええ」


「八原さんとの約束は守ります」


薬丸は、尚造をじっと見つめる。


言葉は少ない。


「……無理はするな」


尚造

「はい」


「でも……」


少し間を置いて、付け足す。


「地図の空白は、気持ち悪いので」


薬丸

「……」


何も言わず、ただ頷いた。



それぞれの班が、

別々の方向へ歩き出す。


振り返る者はいない。


それが、この班のやり方だった。



隆司は、

尚造の背中を追いながら、

ふと口にする。


隆司

「尚造さん……」


「昨日の旅行の話、本気ですよね?」


尚造

「もちろんです」


「雷門で写真撮って」


「箱根で温泉入って……」


一瞬だけ、声が柔らぐ。


「……桜島は、少し長めに滞在したいな」


隆司

「……いいですね」


挿絵(By みてみん)


その会話が、"最後の日常”だった。



この日。


薬丸は、

紅型タオルを取り戻した。


だが――

尚造は違った。


彼らが踏み込む先にあったのは、

敵陣でも、罠でもない。


――“怪物”だった。



(つづく)

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