第二十五話 託された証
尚造の書斎から見つかった古い木箱。
その中に眠っていたのは、
戦場の秘密か。
それとも家族の記録か。
1945年から受け継がれた「ある番号」が、
100年の時を越えて再び姿を現す。
2045年7月上旬。
仲村家。
木箱は、
机の上に置かれていた。
澪
「開いた……」
文造
「開いた……」
継
「開いたな」
ジョンは静かに頷く。
古びた鍵は、
意外なほどあっさり回った。
ギィ……
木箱の蓋が開く。
中に入っていたのは――
大量の書類だった。
⸻
古い地図。
紅型の図案。
手紙。
写真。
そして。
一冊のノート。
澪
「普通だね」
文造
「普通だね」
継
「普通だな」
ジョン
「いや」
ジョンだけが、
別の物を見ていた。
木箱の底。
封筒。
黄ばんだ米軍封筒。
ジョンの手が止まる。
⸻
継
「ジョン?」
返事がない。
ジョンは封筒を裏返した。
そこに記されていた番号。
『CA-OKN-1945-001』
空気が変わった。
澪
「?」
文造
「どうしたの?」
ジョンは、
しばらく黙っていた。
そして小さく呟く。
「……祖父の形見だ」
継
「祖父?」
ジョン
「ああ」
静かに封筒を見つめる。
「俺の祖父が持っていた」
「そして今は俺が持っている」
澪
「家宝?」
ジョン
「そんな立派なものじゃない」
「ただのタグだ」
少し笑う。
「ずっと意味が分からなかった」
⸻
ジョンは、
封筒の端を撫でた。
「子供の頃」
「祖父に聞いたことがある」
『何の番号?』
そう。
何度も。
何度も。
⸻
――回想。
ジョン少年。
祖父は、ただ笑った。
『尚造の作品だ』
『いつか分かる』
『その時が来たらな』
⸻
現在。
ジョン
「結局、それ以上は教えてくれなかった」
継
「……」
ジョン
「でも今なら分かる」
封筒の差出人。
そこに書かれている名前。
『仲村尚造』
沈黙。
文造
「え?」
澪
「は?」
継
「……まさか」
ジョンは頷いた。
ジョン
「祖父はこれを」
「戦利品として持ち帰ったんじゃない」
「託されたんだ」
⸻
誰も喋らなかった。
聞こえるのは、
時計の音だけ。
カチ。
カチ。
カチ。
⸻
継は、
封筒の中身を取り出す。
古い写真。
そこには。
若い米軍将校。
そして。
笑顔の尚造。
並んで写っていた。
ジョン
「……祖父だ」
継
「え?」
ジョン
「若い頃の祖父だ」
澪
「えぇぇぇぇぇ!?」
文造
「敵同士じゃないの!?」
継
「俺に聞くな」
ジョンも苦笑した。
「俺も今初めて見た」
⸻
写真の裏。
小さな文字。
『未来へ』
『証を託す』
『1945』
誰も言葉を失った。
⸻
その夜。
継は、一枚だけ写真を撮った。
封筒。
番号。
そして写真。
送信先。
モーガン。
数分後。
既読。
そして着信。
モーガン
『……どこで見つけたの?』
継
「尚造の木箱」
電話の向こうで、
息を呑む音が聞こえた。
モーガン
『……それが本物なら』
継
「?」
モーガン
『いいから待ってて』
『すぐ行く』
継
「え?」
モーガン
『今から沖縄へ向かう』
⸻
場面転換。
横須賀。
夕暮れ。
護衛艦のシルエット。
港を吹く風。
モーガンは、
急いで荷物を車へ積み込んでいた。
部下
「急な休暇ですか?」
モーガン
「違う」
部下
「?」
モーガンは、
スマホ画面を見せる。
そこには。
『CA-OKN-1945-001』
モーガン
「家族の問題よ」
車のエンジンが掛かる。
夕暮れの港を背に、
車は走り出した。
目的地。
沖縄。
仲村家。
⸻
そして。
1945年へ――
⸻
(つづく)




