第十五話 嘉数の戦い② ――司令部、困惑する
戦場では、
前線にいる人間が
全てを見ているとは限らない。
むしろ逆である。
司令部に届くのは、
短い報告と断片的な数字だけ。
そして時々――
「よく分からない報告」も混ざる。
この日、
第32軍司令部に届いたのは、
嘉数の激戦。
そしてもう一つ。
誰も予想していなかった“被害報告”だった。
1945年4月中旬。
首里城地下。
第32軍司令部。
静かだった。
紙の音だけが響く。
八原は地図を見ていた。
長は腕を組み、
牛島は黙って湯飲みを持っている。
その時。
通信兵
「第62師団より入電!!」
全員が顔を上げた。
通信兵
「敵、大規模攻勢開始」
「砲撃極めて激烈」
「現場混乱あり」
長
「……来たか」
八原
「予想より早いですね」
牛島は黙って地図を見る。
⸻
数分後。
通信兵
「追加電報!!」
長
「読め」
通信兵
「現場調整開始」
「兵士理解度向上」
「混乱改善」
長
「……?」
八原
「待ってください」
通信兵
「なお――」
嫌な間。
通信兵
「仲村少尉、借用」
静止。
長
「…………何?」
八原
「…………何?」
牛島
「…………誰が?」
通信兵
「藤岡師団長です」
長
「借用??」
八原
「何を借りてるんですか」
⸻
その時。
バタバタバタ!!
薬丸が走って入ってきた。
薬丸
「申し訳ございません!!」
土下座しそうな勢いだった。
薬丸
「うちの尚造が前線を動かしてしまい!!」
「誠に申し訳ございません!!」
長
「何故君が謝る」
薬丸
「自分にも分かりません!!」
⸻
牛島が苦笑した。
牛島
「薬丸くん」
「君の責任だけじゃないよ」
薬丸
「……え?」
牛島
「この前ね」
「ピクニックへ行った時に」
「私が少し教えてしまったから」
静止。
長
「……ピクニック?」
八原
「…………」
薬丸
「…………」
牛島
「楽しかったよ」
長
「そこじゃない」
⸻
長が思い出したように言う。
長
「そういえば八原くん」
一拍。
「薬丸くんと仲村くん」
「士官学校の特進だったな?」
八原
「ええ」
淡々と答える。
八原
「学生時代は第一次世界大戦戦史講習」
「教官時代にはアリューシャン戦分析会」
「仲村少尉は両方参加しています」
薬丸
「全部出席してましたね……」
長
「……なるほど」
⸻
八原が少し疲れた顔をした。
八原
「むしろ――」
一拍。
「前線で何も起きない方が不自然です」
全員
「?」
八原
「仲村少尉は」
「情報が足りない場所に置くと」
「勝手に補完します」
静止。
長
「補完するな」
薬丸
「するな」
牛島
「しないでほしい」
⸻
場面転換。
嘉数高地。
村男C
「……尚造さん」
尚造
「はい?」
村男C
「前線じゃ」
「もう昇級の噂が出てます」
静止。
尚造
「えぇっ!?」
隆司
「当然ですよ!!」
尚造
「現場で地図描いてる方が楽しいんですけど〜!」
「肩書き重くなると動きづらいじゃないですか!」
小林
「その感覚がもう怖いです」
その後ろ。
藤岡が腕を組んでいた。
藤岡
「……本当に借りたままじゃ駄目か?」
薬丸
「駄目です」
藤岡
「そうか……」
尚造
「?」
⸻
(つづく)




