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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第四部 尚造編 ― 時と海を越える遺志 ―
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第十四話 嘉数の戦い① ――尚造、敵将を褒める

1945年4月中旬。


沖縄戦は、

ついに“丘”を巡る戦いへと移行した。


砲弾が降り、兵が倒れ、丘は削られていく。


誰もが死を意識する中、

ただ一人――


敵の采配を、

静かに称賛する男がいた。

1945年4月中旬。


沖縄本島中部。


嘉数(かかず)高地。


静かだった。

静かすぎた。


風が吹く。

草が揺れる。


隆司

「……終わった?」


小林

「そんな訳あるか」


誰も笑わなかった。


薬丸は双眼鏡を下ろした。


薬丸

「嫌な静けさだな……」


その時だった。


地面が低く唸った。


ゴォォォォ――


尚造

「……あ」


薬丸

「伏せろォォ!!」


次の瞬間。


空が落ちた。


挿絵(By みてみん)


――ドォォォォン!!


――ガガガガガ!!


――ズズズズズ!!


爆煙。

土砂。

破片。


空気そのものが裂けた。



嘉数集落。


村男C

「急げ!!」


「子供から先だ!!」


民間人たちを壕へ押し込む。


泣く子供。

荷物を抱える老人。


米兵たちは遠くで前進している。


村男C

「止まるな!!」


挿絵(By みてみん)



嘉数高地。


砲撃の直後。


米兵たちが斜面を登り始めた。


隆司

「うわあああ!!」


薬丸

「右からも来てる!」


小林

「死ぬ!!」


前線指揮官。

藤岡武雄が、額の汗を拭う。


藤岡

「……数がおかしくないか?」


誰もがそう思っていた。


ただ一人を除いて。



尚造は、

砲煙の向こうを見ていた。


尚造

「……おお」


薬丸

「?」


尚造

「これは見事ですね」


小林

「は?」


尚造は少し感心していた。


尚造

「バックナー将軍」


「アリューシャン列島で拝見した

 あの圧倒的な大火力」


「丘陵戦へ最適化してますね」


隆司

「い、今なんて……?」


尚造

「火力だけじゃない」


「移動速度と補給速度まで揃えてますね」


砲弾着弾。


――ドォォォォン!!


隆司

「褒めてる場合ですか!?」



小林が歯を食いしばった。


小林

「……尚造さん」


「笑えません」


一拍。


「アッツでは、人間が先に壊れた」


「寒さでも、弾でもない」


「補給が消えた」


「逃げ場が消えた」


「希望が消えた」


沈黙。


小林

「その戦いを指揮した将軍が……」


挿絵(By みてみん)


小林

「今ここにいる」


尚造

「なるほど」


「経験値の転用ですね」


小林

「何でそんな冷静なんですか!!」



藤岡が地図を見る。


藤岡

「問題は地形だ」


「地図と実際が噛み合わん」


薬丸

「八原参謀の反斜面案は正しい」


「だが現場が混乱している」


尚造

「……あ」


全員

「?」


尚造

「誰がどこ担当か、分からなくなってません?」


沈黙。


尚造は小石を並べ始めた。


石。

紐。

空薬莢(からやっきょう)


尚造

「石を人にして」


「紐を補給路にして」


「動かしてみませんか?」


――数分後。


挿絵(By みてみん)


藤岡

「……分かる」


「こっちの方が分かるぞ」


兵士たちも集まり始めた。


「あ、こっち俺たちか」


「補給ここ通るのか」


「見える……」


藤岡は尚造を見た。



藤岡

「……仲村少尉」


尚造

「はい?」


藤岡

「借りるぞ」


静止。


薬丸

「……はい?」


藤岡

「現場調整に使う」


薬丸

「いや待ってください」


「使うって何ですか」


藤岡

「便利だ」


薬丸

「雑すぎません!?」


尚造

「?」


薬丸

「仲村少尉は前線要員じゃありません!」


藤岡

「分かっている」


「だからだ」


藤岡は笑った。


藤岡

「今必要なのは命令を増やす奴じゃない」


「話が通じる奴だ」



反斜面陣地、完成後。


米軍の砲撃は、

丘の表面だけを削った。


銃声。

悲鳴。

停止する米軍。


尚造

「……惜しいですね」


隆司

「何がですか!?」


尚造

「あと一段、火力集中できれば完璧でした」


隆司

「基準がおかしいです!!」



この日。


嘉数高地は落ちなかった。


米軍は、この丘を恐れた。


だが日本軍陣地の中で一人だけ。


恐怖ではなく、

構造を見ていた男がいた。


挿絵(By みてみん)


そしてその男は――


まだ、自分が戦場の中心へ

近づいていることを知らなかった。



(つづく)

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