第七話 鉄の暴風
静かな海は、時に一番恐ろしい。
1945年春。
沖縄へ向かう巨大な艦隊は、
すでに動き始めていた。
人が作った鋼鉄。
人が作った火力。
人が作った合理性。
それらが一つになった時、
島に降り注いだものは、
もはや「戦闘」ではなく――暴風だった。
2045年。
仲村家。
――ガタガタガタガタ!!
窓が激しく震えていた。
外では暴風雨。
雨が横向きに飛んでいる。
澪が窓を見る。
「うわ……ひどい暴風」
文造が少し青い顔をした。
「姉さん、怖い」
継は店の外を見ていた。
「今日は客来ないな」
「湿気もひどいし、店閉めよう」
その時。
スマホが鳴った。
継が画面を見る。
「モーガン?」
通話を取る。
「もしもし?」
モーガンの声。
『大丈夫!?』
『ニュース見たわよ!』
『そっち台風来てるでしょ!?』
継は少し笑った。
「大丈夫」
「店閉めるだけ」
『本当に?』
「文造がちょっとビビってるけど」
文造
「言うな!」
澪が笑った。
少し雑談。
天気。
店。
最近の港。
そして少し沈黙した後。
モーガンが静かに言った。
『……まあ』
『鉄の暴風に比べたらマシよ』
継
「鉄の……暴風?」
モーガン
『沖縄ではね』
『空そのものが落ちてきたのよ』
⸻
1945年3月末。
沖縄本島西岸。
空が鳴った。
次の瞬間。
地面が、消えた。
ドォォォォォン!!!
閃光。
衝撃。
土。
石。
木片。
全部が空へ飛んだ。
隆司
「うわああああああ!!」
小林
「な、なんだこれ!!」
兵士たちが地面へ伏せる。
耳を塞ぐ者。
泣き叫ぶ者。
動けなくなる者。
笑い出す者。
誰もが理解していた。
――逃げ場がない。
村男B
「……はは」
笑っていた。
だが声が震えている。
「これが……」
「艦砲射撃かよ……」
⸻
その中。
二人だけが走っていた。
薬丸
「落ち着け!!」
尚造
「北西方向!二番艦主砲です!」
隆司
「え!?」
尚造は空を見た。
爆煙。
着弾。
音。
全部を一瞬で見ていた。
「二十秒間隔!」
「次来ます!」
「この通路右!」
「段差二つ!」
「急いでください!」
兵たちは反射で動いた。
考える暇がなかった。
ただ従った。
――ドォォォォン!!!
背後が吹き飛んだ。
全員の顔が青くなる。
小林
「今の場所!!」
隆司
「俺たち死んでた!!」
⸻
防空壕。
全員が肩で息をしていた。
隆司
「な、なんで分かるんですか……?」
尚造
「え?」
少し考える。
「ああ」
「学校で第一次世界大戦の映像を」
全員
「「「映像?」」」
隆司
「学校って……」
「俺、小学校しか行ってませんけど……」
村男B
「俺も村の小学校までだな」
「兵学校で尚造さんに教わったくらいだ」
隆司
「そういえば班長と尚造さん」
「八原参謀の作戦地図、読めてましたね……」
村男B
「八原参謀のは文字が多い」
「尚造さんのは色と矢印で何となく分かる」
尚造
「小林くん」
「映像、見てませんか?」
小林(幼年学校卒)
「見てません!!」
尚造
「えっ」
本気で驚く。
薬丸
「……同じクラスの宮様も、ご覧になっていたぞ」
全員
「「「宮様!?」」」
小林
「いやそこじゃない!!」
⸻
遠くで砲撃音が響く。
ドォォォォン。
ドォォォォン。
隆司が聞く。
「……尚造さん」
「怖くないんですか?」
尚造は少し考えた。
そして笑う。
「怖いですよ?」
「今、地下壕の補修案考えてましたけど」
沈黙。
村男B
「……一番怖いの尚造さんだよ」
⸻
この日。
多くの兵が恐怖に呑まれた。
だが同時に。
誰も口にはしなかったが――
一つの事実だけが共有された。
――尚造の指示に従えば、生き残れる。
紅型職人。
自称・軍人バイト。
だがその男は。
「鉄の暴風」の中で、
誰よりも冷静だった。
⸻
(つづく)




