第六話 島は、もう詰んでいた
1945年初頭。
沖縄では地下壕建設が進んでいた。
静かな海。
静かな空。
だが戦場では、
静かな時ほど危険なことがある。
海が荒れる前は、
なぜか少し静かになるらしい。
そして今――
沖縄の海は、
あまりにも静かだった。
1945年初頭。
沖縄本島西岸。
波は静かだった。
風も弱い。
海面は、
不気味なほど穏やかだった。
隆司は、海を見ていた。
隣では、村男Bが岩に腰掛けている。
口元には煙草。
顔には古い傷跡。
ガダルカナル帰りの海兵だった。
「……静かだな」
村男Bが呟いた。
隆司も頷く。
「はい」
しばらく沈黙。
波の音だけが続く。
そして隆司が言った。
「じいちゃん、よく言ってました」
村男Bが見る。
「海が荒れる前は、静かになるって」
「日露戦争でもそうだったらしいです」
村男Bは少し笑った。
「秀伍さん、渋いな」
「で?」
隆司は海を見たまま言った。
「……今、嫌な感じがします」
村男Bは煙を吐いた。
「奇遇だな」
「俺もだ」
二人は黙った。
海だけが静かだった。
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その頃。
沖縄近海。
アメリカ軍艦隊。
水平線まで――
鋼鉄だった。
艦。
艦。
艦。
戦艦。
巡洋艦。
駆逐艦。
輸送船。
その数は、
海そのものを埋め尽くしていた。
アメリカ陸軍第10軍司令官。
サイモン・ボリバー・バックナー・ジュニア。
双眼鏡を下ろし、
静かに報告書へ目を通す。
「……離島の制圧状況は?」
副官スティルウェルが答えた。
「予定通りです」
「住民避難」
「拠点制圧」
「通信遮断」
「抵抗は限定的でした」
バックナーは頷いた。
「当然だ」
「本島決戦前に、
彼らが勝てる戦はない」
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作戦会議室。
机の上には、
沖縄本島地図。
バックナーは指で島をなぞった。
「離島を捨てたか」
スティルウェルが言う。
「賢明な判断です」
バックナーは少し黙った。
「……賢明すぎる」
空気が止まった。
「兵力を無駄にしていない」
「撤退に迷いがない」
「誰かが全体を見ている」
若い将校が言う。
「司令官でしょうか?」
バックナーは首を振った。
「いや」
「組織全体が妙に統一されている」
全員が黙った。
バックナーは地図を見る。
沖縄。
小さな島。
だが――
妙に静かだった。
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夜。
艦上。
バックナーは海を見ていた。
スティルウェルが隣に立つ。
「何か問題が?」
バックナーは海を見たままだった。
「日本軍は、
命を軽く扱うと思われがちだ」
「だが今回は違う」
「人間を無駄にしていない」
「人間を資源として残している」
スティルウェルが聞く。
「……脅威でしょうか?」
バックナーは少し笑った。
「脅威だ」
「ようやく、まともな相手だ」
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その時。
沖縄の地下では――
一人の男が、
紅型布へ何かを書き足していた。
「こっちの導線を修正して……」
「補給路も増やして……」
尚造は笑っていた。
楽しそうだった。
そして誰も知らない。
島全体が――
もう逃げ場のない
盤面になり始めていたことを。
⸻
(つづく)




