第五話 尚造、首里城地下壕地図を描いた
沖縄戦準備スタート。
前回、
「首里城を掘るぞ」と言われた尚造たちだが、
今回は地下壕建設が本格化する。
……のだが、
主人公が大人しくしているはずもない。
真面目な戦争準備回のはずが、
気付けば紅型職人が暴走していた。
1945年1月。
首里城地下。
ツルハシの音が響いていた。
ガンッ。
ガンッ。
赤土が崩れ落ちる。
汗だくの兵士たちが、
無言で地面を掘り続けていた。
「支柱!」
「こっち土砂運べ!」
「急げ!」
工兵と民間人作業員が、
入り乱れて動いている。
その中で――
村男Eが汗を拭った。
「……し、死ぬ」
「なんでこんな掘るんだよ……」
隣の作業員が苦笑する。
「まだ始まったばかりだぞ」
「うそだろ」
村男Eは遠い目をした。
⸻
その頃。
諜報班詰所。
尚造は何かを机に並べていた。
隆司が首を傾げる。
「……何してるんですか?」
尚造は振り向いた。
笑顔だった。
「紅型タオルです」
机の上には、
大量の布が並んでいた。
沖縄地図柄。
花柄。
海柄。
無駄に種類が多い。
小林が固まる。
「待て」
「待て待て待て」
「なんで?」
尚造は真顔だった。
「汗をかきますから」
「作業効率向上です」
隆司が苦笑する。
「尚造さん時々飛びますよね……」
薬丸が書類から顔も上げずに言う。
「時々じゃない」
⸻
その時。
兵士が飛び込んできた。
「大変です!」
「第三通路が崩れました!」
空気が変わる。
八原が立ち上がった。
「導線は」
「完全に塞がれています!」
薬丸が舌打ちする。
「クソ……」
「またか」
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数十分後。
諜報班。
地図が机いっぱいに広げられていた。
小林が顔をしかめる。
「比嘉二等兵」
「これ……もう迷路じゃないか?」
隆司が頷く。
「はい、小林伍長」
「正直、自分でも場所分からないです」
薬丸が頭を抱える。
「敵より先に味方が遭難するぞ」
誰も否定できなかった。
その時。
尚造が地図を見て、
小さく首を傾げた。
「……あ」
全員が見る。
「母の家に似てますね」
沈黙。
小林が瞬きをする。
「……え?」
尚造はニヤリと笑って立ち上がった。
「僕がやります」
「え?」
薬丸が眉をひそめる。
「お前の実家どうなってるんだ」
尚造は平然としていた。
「母は元琉球王族なので」
「廊下が多いんです」
薬丸が真顔になった。
「そういう問題じゃない」
⸻
数日後。
第32軍司令部。
牛島、長、八原が机を囲んでいた。
「仲村少尉が完成させた資料です」
薬丸からそう言われて
運ばれてきたものを見て――
全員が止まった。
布だった。
巨大な紅型布。
しかも平面ではない。
山の高低差。
地下通路。
退避路。
崩落時の代替経路。
全部が立体化されている。
長が固まる。
「…………」
牛島が固まる。
「…………」
八原が眼鏡を押し上げた。
「……尚造」
尚造が敬礼する。
「はい」
八原が静かに聞く。
「君は本当に染物職人か?」
尚造は少し考えた。
「はい?」
「紅型職人です」
沈黙。
薬丸が顔を覆った。
「駄目だこいつ……」
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八原だけは、
地図を見続けていた。
そして小さく呟く。
「……使える」
「だが――」
「戦場に慣れさせない方がいい」
牛島が顔を上げる。
「理由は?」
八原は少しだけ考えた。
「……優秀すぎます」
「軍が勝手に使い始めます」
その瞬間だった。
尚造の描いた地図が、
沖縄戦最大の地下要塞の基礎になった。
そして――
八原の嫌な予感もまた、
静かに始まっていた。
本人だけは、
まだ全く気付いていなかった。
⸻
(つづく)




