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記録001|観測|日本:未確認展示

第四部では、

二人の主人公が登場します。


一人は、1945年を生きた者。

もう一人は、2045年を生きる者。


彼らは、

異なる時代を歩きながら、

同じ“何か”へ辿り着いていきます。


――まずは、

二人による旅の記録を、いくつかお見せします。

2045年。日本。

 

場所の表示は——

どこにもない。


尚造は、ガラスの上に立っていた。


挿絵(By みてみん)


いや、正確には。

ガラスの“下”に、自分の描いたものがあった。


色が、踏まれている。

線が、靴底に擦れている。


「……ここは、どこでしょうか」


誰に向けたのか分からない問いが、空間に落ちる。


「なぜこれが……ここに?」


足元を見下ろす。


見覚えのある配置。


――だが、完成した記憶はない。


そのとき。


「やっと来ましたね」


声が、背後からした。


振り返ると、男が一人。


「初めまして。継といいます」


一拍。


「あなたの孫です」


挿絵(By みてみん)


「孫?」


「はい。説明は後で」


継は、尚造の足元を一瞥した。


「それ、もう“国内だけの問題”じゃないんです」


「世界?」


「尚造さん」


継は、少しだけ間を置いて言う。


「あなたのせいで、揉めてる人たちがいます」


尚造は、黙った。


ガラス越しに、“それ”を見る。


「踏むか、どうか……」


「はい」


「100年後も?」


「100年後も、です」


継はスマートデバイスを操作する。


空中に、複数の映像が浮かんだ。


挿絵(By みてみん)


どこかの展示室。

ガラスの床。


その上で——


靴を脱ぐ人間。

怒鳴る人間。

何も言わず立ち尽くす人間。


同じものを、見ている。


「……増えていますか」


「はい。止まりません」


尚造は、もう一度だけ足元を見た。


「これは——」


言いかけて、やめる。


継が一歩、近づいた。


「だから」


その手が、尚造の腕を掴む。


「回収に行きます」


「回収?」


「全部じゃなくていいです」


「何をです」


「“反応”です」


尚造は眉をひそめた。


「反応を、回収する?」


「はい。見に行きます」


「どこへ」


継は、少しだけ笑った。


「世界中です」


一瞬、視界が揺れる。


床の感触が消えた。



代わりに——


広い空間。

明るすぎる光。

絶えないアナウンス。


「……ここは、どこでしょうか」


挿絵(By みてみん)


「空港です」


「港……?」


尚造は天井を見上げた。


「船が見当たりません」


「飛びます」


「何がです?」


「人がです」


尚造は、しばらく黙った。


「……人が?」


巨大なガラス窓の向こう。


機体が滑走路を進んでいる。


「……あれですか」


「はい」


「民間人を乗せて飛ぶのですか」


「はい」


「正気ですか」


「慣れてます」


尚造は、深く頷いた。


「……なるほど。慣れは恐ろしいですね」



チェックインカウンター。


「ここで手続きをします」


「紙はどこです?」


「いりません」


「いりません?」


継がスマホを見せる。


挿絵(By みてみん)


「これで全部できます」


尚造は画面を覗き込む。


「……これ一つで?」


「はい」


「通行証も?」


「はい」


「金も?」


「はい」


尚造は、少しだけ後ずさった。


「……便利すぎて、怖いですね」


「よく言われます」



保安検査場。


「ここで止められるのですか?」


「チェックです」


尚造が通る。


何も起きない。


「……疑われませんでした」


「幽霊ですから」


「便利ですね」


「その使い方やめてください」



搭乗ゲート。


尚造がパスポートを手に取る。


「これは何です?」


「身分証明です」


「これ一つで?」


「はい」


「どこへでも?」


「大体どこへでも行けます」


尚造は、少しだけ目を細めた。


「……ずいぶん、自由ですね」


「そうですね」


「昔は、もっと大変でした」


「でしょうね」


尚造は静かに言う。


「行けるかどうかが問題でした」


継は、何も言わなかった。



搭乗アナウンスが流れる。


「尚造さん」


継が振り返る。


「ワールドツアー、行きますよ」


挿絵(By みてみん)


尚造は、短く息を吐いた。


「……成仏するのはしばらく先ですね」


「まだ、終わってませんから」


その一言に、尚造は何も返さなかった。


二人は一歩、踏み出す。


——最初の場所へ。



(つづく)

“2045年の時代でも揉めるもの”って、

何だと思いますか?

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