記録002|観測|アメリカ:踏む者たち
最初の観測地点。
人は、“踏むかどうか”で分かれた。
機内。
低い振動が、一定のリズムで続いている。
「……飛んでいますね」
尚造が窓の外を見る。
雲の上。
地面は、見えない。
「はい」
「落ちませんか?」
「落ちません」
「本当にですか?」
「多分大丈夫です」
尚造は、しばらく黙った。
「……“多分”ですか」
シートベルトサインが点灯する。
「これは何です?」
「固定です」
「逃げられませんね」
「逃げないでください」
尚造はベルトを引っ張る。
「拘束されている気分です」
「安全のためです」
「戦場と同じ言い方ですね」
継は無言になった。
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機内食が配られる。
「……少ないですね」
「軽食です」
「これで足りますか?」
「足りない人もいます」
尚造は箱を覗き込む。
「効率的ではあります」
「またそれですか」
「無駄がありません」
「楽しさも減ってます」
尚造は少し考えた。
「……確かに」
「尚造さん」
継が窓の外を指す。
「もうすぐ着きます」
尚造は目を細める。
「……あれですか」
遠くに、密集した光の塊。
「はい」
「ずいぶん、集めましたね」
「そういう街です」
尚造は、小さく頷いた。
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ニューヨーク。
高層ビルが、空を押し上げている。
「……ずいぶん高いですね」
「そういう街ですから」
「城でもないのに、こんなに積むのですか」
「城じゃないから積むんです」
「なるほど、守る気がないんですね」
「逆です」
継は歩きながら答える。
「見せるために高くしてるんです」
「敵に?」
「世界に、です」
尚造は少しだけ考えた。
「……では、落とされたら目立ちますね」
「その発想やめてください」
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タイムズスクエア。
巨大な画面が、昼でも光っている。
人、人、人。
「お祭りですか?」
「日常です」
「毎日これですか」
「はい」
「疲れないのですか」
「疲れてます」
尚造は、ふと足元を見る。
人々は、迷いなく歩いている。
「……慣れると、気にしなくなるんですか」
「何がです?」
「いや」
言葉を切る。
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「着きました」
国連本部。
「ここは?」
「“話し合う場所”です」
「決める場所じゃないのですか」
「一応、決めます」
「一応、ですか」
「はい」
尚造は小さく笑った。
「ちょうどいいですね」
「何がです?」
「揉めるための場所としては」
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展示室。
床の下に、“それ”。
尚造は一歩、踏む。
「……踏ませるのですね」
「はい」
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最初の来場者。
床を見て、靴を脱ぐ。
ゆっくりと立つ。
「……避けていますね」
「そう見えますか」
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別の一団。
顔が変わる。
「撤去を要請する」
「理由は?」
「説明はしない」
「記録します」
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若い女性。
立ち止まる。
「……綺麗です」
一拍。
「でも、踏みたくない」
「理由は?」
「分かりません」
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入口で、止まる男性。
中に入らない。
「入れない」
「理由は?」
少しだけ間。
「……踏んだことになるからだ」
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空気が、変わる。
誰も説明しない。
ただ——
数人が靴を脱ぐ。
尚造は、下を見る。
「継くん」
「はい」
「これは、何を踏ませていますか」
「まだ、決まっていません」
「決めるのは?」
「見た人です」
尚造は、静かに頷いた。
「……厄介ですね」
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その日。
展示は止まらなかった。
ただ——
それが何なのかを、
説明する者は、
一人もいなかった。
⸻
(つづく)




