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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第三部 美咲編 ― 沖縄に咲く紅 ―
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203/230

最終話 2025年ーー隆司の退職

2025年。

美咲の死後。


春の光が、

工房の入口に静かに差し込んでいた。


変わらない朝。

変わってしまった空気。


その中で――


継、健太、彩乃の三人が並び、

隆司の前に立っていた。


継が、一歩だけ前に出る。


手には、花束。


「長い間――ありがとうございました」


ほんの一拍。


「……これからは、僕たちが」


「この工房を、守ります」


言葉は少なかった。


だが、そこに込められたものは重かった。


隆司は、少しだけ目を細める。


花束を見る。

三人を見る。


そして――

いつものように、笑った。


隆司

「おう」


一言。


それだけだった。


だが、その声には――

すべてが含まれていた。



工房の奥。


長く閉ざされていた扉の前で、

隆司は立ち止まる。


誰も、何も言わない。


しばらくして――

ポケットから、古い鍵を取り出した。


静かに。

迷いなく。


それを、継の手に置く。


隆司

「……この部屋はな」


わずかな間。


「君には、必要ない」


継の指が、わずかに止まる。


隆司は続ける。


「大掃除でも、断捨離でも」


「好きにしていい」


封筒を差し出す。


「業者を使え。無理はするな」


淡々とした口調。


だが――


その裏にあるものに、

誰もが気づいていた。


継は、ゆっくりと鍵を握る。


「……はい」


それ以上は、言わなかった。


隆司もまた――

振り返らなかった。



工房を出る直前。


春の光の中で、継が声をかける。


少しだけ、いつもの調子で。


「隆司さん」


「そろそろ、100歳ですよ」


隆司は、足を止めずに答える。


隆司

「おう」


それだけだった。


振り返らない。

立ち止まらない。


ただ――

前を見て、歩いていく。



2030年。


隆司は――

静かに、その生涯を終えた。


誰にも迷惑をかけることなく。

誰にも見送られすぎることなく。


ただ、自然に。


――まるで、

役目を終えた者のように。


挿絵(By みてみん)



2045年。


工房。

あの部屋の前。


継が立っていた。


手の中には――

あの鍵。


しばらく見つめる。


そして――

ゆっくりと、鍵を差し込む。



美咲編・完

ここまで、

美咲と隆司の物語を読んでくださり、

ありがとうございました。


この物語で描いてきたのは、

戦争そのものではなく――

そのあとを生きた人たちの時間です。


美咲は、戦わない世代でした。

それでも彼女は、戦争の影と共に生き、

壊れたものの中から、残すべきものを選び続けました。


隆司もまた、

多くを語らないまま、

長い時間を生き抜いた一人です。


彼の退職は、

ひとつの時代の終わりでした。



そして、次回。

明日 6月11日(木) 21:00


これまで語られてこなかった物語について、

お話しさせていただきます。


この作品の中で、

ずっと“触れられなかった部分”。


その先にあるものを、

ようやくお見せできる段階になりました。



次話は、第四部の告知回です。


少しだけ、

この物語の“その先”を

覗いていただければと思います。

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