第四十九話 2020年ーー尚造の系譜(2号&3号)
2020年。
世界が止まった年。
だが――
この工房だけは、止まらなかった。
理由は、ひとつ。
尚造の血が、動いたからである。
2020年。
沖縄。
仲村工房。
空気は、重かった。
仕事は減り、
人の動きも止まっている。
それでも――
布だけは、そこにあった。
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「……マスク、足りないらしいな」
健太が、ぽつりと言う。
彩乃が頷く。
「うん。どこも不足してるって」
「でも、医療用じゃないと
意味ないって言われてるし……」
沈黙。
布はある。
だが、使えない。
その事実が、妙に重かった。
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その時だった。
「……作れます」
静かな声。
全員が、顔を上げる。
継だった。
「布でいいなら」
一拍。
「“意味のあるもの”にできます」
「いや待て」
健太が即座に止める。
「普通に考えて無理だろ」
「医療用じゃないって今言ってただろ!?」
継は、布を見ている。
「……機能だけじゃ足りません」
「意味も、必要です」
彩乃が小声で言う。
「……なんか怖いこと言い出した」
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その日からだった。
継が、動き出したのは。
作業台。
紅型の布。
異様な集中力。
誰も話しかけられない。
健太
「……これ、止めた方がいいやつか?」
彩乃
「たぶんもう手遅れ」
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数時間後。
完成したそれは――
やたら美しいマスクだった。
「いや派手すぎる!!」
健太が叫ぶ。
「これ完全に主張強いだろ!!」
彩乃
「というか医療用じゃないよね!?」
継
「はい」
即答。
「ですが――」
「これは“残る”」
沈黙。
健太
「何が?」
継
「記憶です」
彩乃
「こわい」
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その頃。
米軍基地。
「……足りない?」
美咲が、静かに聞く。
兵士
「マスクが……」
「補給が間に合ってなくて――」
美咲は、頷いた。
「そう」
一拍。
「じゃあ、配ればいい」
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数時間後。
「What is this…?」
米兵が、紅型マスクを手にする。
鮮やかな色彩。
波、花、島。
完全に“普通じゃない”。
美咲
「文化財です」
米兵
「?????」
だが。
「……Cool」
別の兵士が言った。
「Very cool」
気づけば、
皆、つけていた。
「……なぜだ」
誰かが呟く。
「統率が取れてる……」
完全に現場制圧。
尚造2号、発動である。
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仲村工房。
「これ、兵站的には革命だよ」
ジョン3世が、真顔で言った。
全員
「?」
「補給線に依存しない布製装備で――」
健太
「やめろ」
彩乃
「火に油」
ジョン3世は止まらない。
「あと迷彩柄にすれば――」
美咲
「それはやらない」
即答。
沈黙。
健太が、頭を抱える。
「なんでこの家系こうなんだよ!!」
彩乃
「普通にマスク作るだけでいいのに!!」
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少し離れた場所。
隆司とジャックが、それを見ていた。
隆司
「……また始まったな」
ジャック
「懐かしいな」
隆司が、静かに言う。
「あれが“尚造”だ」
ジャックが頷く。
「止めても無駄だ」
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作業台。
完成した紅型マスク。
誰かが、手に取る。
継が、それを見る。
「……これ」
一拍。
「もっと遠くに行けます」
沈黙。
隆司が、わずかに笑う。
「……行くな、これは」
ジャックも、同じ顔で。
「行くな」
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布が、揺れた。
それは――
またひとつ、
世界へ出ていく合図だった。
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(つづく)
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
今回は完全にコント回でしたが、
仲村工房の日常は、
こうして少しずつ続いていきます。
――ただし。
この物語は、もうすぐ終わりを迎えます。
次回、美咲編・最終話。
舞台は再び、あの工房。
そして――
“あの部屋”の扉が、開きます。
そこにあるのは、
残されたものか。
それとも――運ばれるべきものか。
どうか、最後まで見届けてください。




