第四十話 答えは、もう決まっていた
言葉にすることは、怖い。
壊れてしまうかもしれないから。
変わってしまうかもしれないから。
けれど――
それでも、伝えなければならない時がある。
沖縄。
夕暮れ。
空は、ゆっくりと色を変えていた。
工房の仕事を終え、
人の気配が少しずつ消えていく。
静かな時間。
⸻
健一は、一人で外に出ていた。
風が吹く。
遠くに、海の音。
ポケットの中で、
小さな箱を握りしめる。
健一
「……はぁ」
小さく、息を吐く。
その背後から――
彩花
「ここにいたのね」
振り向く。
そこに、彩花がいた。
いつも通りの、穏やかな笑顔。
健一
「……少し、考え事を」
彩花
「珍しいね」
少しだけ、隣に立つ。
沈黙。
だが、不思議と気まずくはない。
彩花
「……今日、きれいだね」
健一
「え?」
彩花
「空」
健一も、空を見上げる。
橙色と、群青が混ざる。
その境目が、ゆっくりと溶けていく。
健一
「……そうですね」
⸻
しばらくの沈黙。
風の音だけが、流れる。
健一は、ゆっくりと口を開く。
健一
「……あの」
少しだけ、声が詰まる。
それでも――
健一
「彩花さん」
彩花が、静かに彼を見る。
その目は、逃げていない。
健一
「……俺は」
言葉を選ぶ。
慎重に。
だが、今回は――逃げない。
健一
「ずっと、考えていました」
彩花は、何も言わない。
ただ、待つ。
健一
「これから、どう生きるか」
「どこで、何をするか」
「誰と――」
一拍。
健一
「……誰と、生きていくか」
風が、少し強く吹く。
健一
「その答えは」
ゆっくりと、彩花を見る。
健一
「……もう、決まっていました」
彩花の瞳が、わずかに揺れる。
⸻
健一は、ポケットから小さな箱を取り出す。
それを、静かに開く。
夕陽が、そこに差し込む。
健一
「彩花さん」
一歩、近づく。
健一
「俺と――」
ほんのわずかな間。
だが、確かに積み重ねてきた時間が、そこにある。
健一
「結婚してください」
静寂。
風も、音を止めたように感じる。
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彩花は、少しだけ目を伏せる。
そして――
小さく、息を吸う。
彩花
「……遅い」
健一
「……え」
彩花は、くすっと笑う。
彩花
「ずっと前から、分かってた」
一歩、近づく。
健一の前に立つ。
彩花
「でも」
顔を上げる。
その表情は、柔らかくて――強い。
彩花
「ちゃんと聞きたかった」
一拍。
そして――
彩花
「はい」
静かに、しかし確かに。
彩花
「喜んで」
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健一の肩から、力が抜ける。
思わず、笑ってしまう。
健一
「……よかった」
彩花も、少しだけ笑う。
健一は、指輪を取り出す。
少しだけ手が震える。
彩花が、そっと手を差し出す。
その手に――
指輪がはめられる。
夕陽が、二人を包む。
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少し離れた場所。
物陰。
小林(小声)
「うおおおおおおおお!!!!!」
美咲
「しーっ!!」
隆司
「声でかい」
小林
「成功したあああああ!!」
美咲
「最初から成功するって分かってたでしょ」
隆司
「まぁな」
その後ろで、
文が、静かに見ている。
文
「……よかった」
誰に向けた言葉でもない。
けれど、確かに届いている。
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再び、二人。
健一
「……これから、よろしくお願いします」
彩花
「こちらこそ」
少しだけ、間。
彩花
「健一」
健一
「はい」
彩花
「……幸せにしてね」
健一は、少し驚いて――
そして、笑う。
健一
「……はい」
彩花
「私も、幸せにします」
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二人は、並んで立つ。
夕焼けの中。
未来の方を見ている。
風が吹く。
それはもう、迷いの風ではない。
⸻
(つづく)




