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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第三部 美咲編 ― 沖縄に咲く紅 ―
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第三十一話 交差する国家の思惑

国家は、時に選択を誤る。

だが、その誤りもまた、

誰かが背負わなければならない。


政治家。軍人。市民。

そして、名もなき職人たち。


歴史を作るのは英雄だけではない。

それを受け取る者もまた、歴史の当事者である。

東京・健一の部屋。


朝の空気は、

昨日とは違っていた。


静かだが——

重い。


テーブルの上。

紅型。


そして——

一枚の紙。


挿絵(By みてみん)


「首相公邸にて面会を求む」


誰も、それに触れない。



健一が、頭を抱えていた。


健一

「……いや、無理ですよ」


誰に言うでもなく。


健一

「総理ってテレビの中の人ですよね?」


彩花

「うん」


健一

「なんで会うんですか?」


沈黙。


隆司は、壁にもたれたまま。


隆司

「向こうが来いと言った」


一拍。


隆司

「それだけだ」


健一

「それだけじゃないでしょ!!」


小林は、静かに言う。


小林

「国家は、“必要なもの”しか呼ばない」


健一

「それが怖いんですよ!!」


黒田が、紙を指で軽く叩く。


黒田

「これは招待じゃない」


一拍。


黒田

「“召喚”だ」


沈黙。


彩花が、小さく息を吐く。


彩花

「……断れない、よね」


黒田は頷く。


黒田

「断れば、それで終わる」


健一

「何がですか……」


黒田

「すべてだ」


沈黙。



美咲は、紅型を見ている。


指先で、布に触れる。


静かに。


美咲

「……準備、します」


挿絵(By みてみん)


健一

「準備って何を!?」


美咲

「話すことを、決めます」


一拍。


美咲

「ぶれないように」


隆司が、小さく頷く。


隆司

「いい判断だ」


小林

「……言葉は、武器になる」


健一

「急に怖いこと言わないでくださいよ」


黒田が続ける。


黒田

「相手は政治家だ」


一拍。


黒田

「言葉で動かす人間だ」


彩花

「じゃあ……」


少し迷いながら。


彩花

「私たちも、言葉で戦うってこと?」


黒田

「そうだ」


短く。


黒田

「そして——負ければ終わる」


空気が、張り詰める。


健一

「……やっぱ無理ですって」


頭を抱える。


健一

「俺、一般人ですよ!?」


隆司

「全員そうだ」


健一

「いやいやいや!!」



その時。


美咲が、顔を上げる。


美咲

「でも」


全員が、彼女を見る。


美咲

「これは、私たちの問題じゃない」


一拍。


美咲

「沖縄の問題です」


沈黙。


健一は、言葉を失う。


彩花は、目を伏せる。


隆司は、静かに見ている。


小林は、わずかに目を細めた。


美咲

「だから——」


ゆっくりと。


美咲

「逃げません」


その一言で、空気が決まる。


黒田が、頷く。


黒田

「……では、段取りに入る」


一歩、前に出る。


黒田

「面会は、形式上“意見聴取”だ」


健一

「形式上?」


黒田

「実質は——判断材料の確認」


小林

「つまり」


小林

「国家が、決める前に聞く」


黒田

「そうだ」


彩花

「じゃあ……」


彩花

「もう、ほぼ決まってるってこと?」


黒田は、少しだけ間を置く。


黒田

「……ああ」


その言葉は、重かった。



夕方。

東京の街。


人通りの少ない路地。


美咲、一人。

手には、紅型の包み。


足音。

止まる。

振り向かない。


CIA

「……逃げないんですね」


静かな声。


美咲

「逃げる理由がありません」


ゆっくり振り返る。


CIAの女は、少しだけ距離を詰める。


CIA

「今日は“提案”ではありません」


一拍。


「最終確認です」


挿絵(By みてみん)


沈黙。


遠くで車の音。


CIA

「首相公邸へ行くそうですね」


美咲、否定しない。


CIA

「選択肢は三つです」


指を一本。


「引き渡す」


二本。


「国家に委ねる」


三本。


「それ以外は——」


「あなたの人生が終わります」


風。


髪が揺れる。


CIA

「首相公邸に行く前なら——」


「まだ“民間の問題”として処理できます」


美咲

「……行った後は?」


CIA

「国家間の問題になります」


「そうなれば——」


ほんのわずかに視線を外す


「我々でも、手が出せなくなる」


一拍。


「だから今、決めなさい」


美咲は少し考える。


そして、顔を上げる。


美咲

「……質問、いいですか」


CIA

「どうぞ」


美咲

「あなたは、それを“正しい”と思ってるんですか」


わずかな沈黙。


女は答える。


CIA

「正しいかどうかは関係ありません」


一拍。


「必要です」


美咲

「誰にとって?」


女の目が、わずかに細くなる。


CIA

「国家です」


美咲

「違います」


即答。


CIA

「……何が違うと?」


美咲、一歩踏み出す。


距離が縮まる。


美咲

「それは“国家の都合”です」


一拍。


「人のためじゃない」


沈黙。


空気が張り詰める。


CIA

「あなた一人で、何が守れると?」


美咲

「一人じゃないです」


CIA

「……?」


美咲

「沖縄があります」


一拍。


「時間があります」


さらに一歩。


「記憶があります」


女は、初めて言葉を失う。


美咲

「あなたたちは“今”しか見ていない」


一拍。


「私は、“100年後”を見てます」


沈黙。


CIA

「……理想論です」


美咲

「そうです」


即答。


美咲

「だから、やる価値があります」


長い沈黙。


女は、わずかに息を吐く。


CIA

「……理解しました」


一歩、下がる。


CIA

「では——」


一拍。


「“排除対象”として扱います」


挿絵(By みてみん)


空気が変わる。


完全に。


美咲

「構いません」


「後悔しますよ」


美咲

「しません」


沈黙。


女は背を向ける。


CIA

「……次に会う時は」


振り返らずに。


「もう少し厳しい状況です」


去っていく。


一人残る美咲。


わずかに手が震えている。


だが——

握り直す。


美咲(心の声)

(……怖い)


一拍。


(でも)


(止まらない)


ゆっくり歩き出す。



場面転換。


首相公邸。


重厚な扉。

静寂。


秘書官が、資料を手に立っている。


秘書官

「例の件ですが……」


部屋の奥。

一人の男。


佐藤栄作は、静かに目を閉じていた。


佐藤

「……分かっている」


ゆっくりと、目を開く。


佐藤

「沖縄が帰る前に」


一拍。


佐藤

「決めなければならない」


その言葉は、独り言ではなかった。


国家の決断だった。



場面転換。


東京・夕方。

健一の部屋。


誰も、言葉を発さない。


ただ、そこにあるのは——


紅型。

そして、

決断の時間。


美咲が、静かに言う。


美咲

「……行きましょう」


誰も、反対しなかった。


挿絵(By みてみん)


すべてが、交差する場所へ。



(つづく)

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