第二十九話 余波 —動き出したもの—
一つの決断が、すべてを動かす。
それは、静かに世界へ広がっていく。
東京・健一の部屋。
朝。
テレビのニュースが、
淡々と流れている。
「日米政府は沖縄返還に向け、
最終調整に入ったと見られ——」
彩花
「……ずっとこれだね、このニュース」
健一
「いや、“ずっと”どころじゃないです」
苦笑するが、目は笑っていない。
健一
「俺たち、完全にど真ん中にいますよ……」
沈黙。
美咲は、
何も言わずに紅型を見ている。
⸻
隆司は、
壁にもたれて腕を組む。
隆司
「引き返すなら、今だ」
一瞬。
誰も動かない。
彩花
「……引き返せるんですか?」
隆司は答えない。
健一が、静かに言う。
健一
「無理ですよね」
小さく笑う。
健一
「もう、“関わった人間”ですし」
⸻
小林は、
窓の外を見ている。
その目は、
昨日までとは違っていた。
小林
「……来るな」
健一
「え?」
小林
「圧力だ」
短く。
小林
「もう、“調査”じゃない」
一拍。
小林
「“動かしにくる”」
⸻
その時。
インターホンが鳴る。
全員の視線が止まる。
健一
「……出ます」
玄関へ向かう。
ドアを開ける。
誰もいない。
足元。
——封筒。
健一
「……なんだこれ」
拾い上げる。
部屋へ戻る。
⸻
テーブルの上。
封筒を開ける。
中には、一枚の紙。
「首相公邸にて面会を求む」
沈黙。
⸻
彩花
「……え?」
健一
「いやいやいやいや」
一気に早口になる。
健一
「え、これドッキリですか?
国家規模の?」
黒田が、ゆっくりと紙を見る。
黒田
「……本物だ」
健一
「やめてくださいよその即答!?」
黒田
「ルートが“公式すぎる”」
一拍。
黒田
「これは……
逃げ場がない」
⸻
美咲は、紙を見る。
ただ、静かに。
美咲
「……行きます」
健一
「即決!?」
彩花
「早い早い」
隆司は、わずかに笑う。
隆司
「そうだろうな」
小林
「……当然だ」
健一
「いやいやいや、
ちょっと待ってくださいよ!」
立ち上がる。
健一
「相手、総理ですよ!?」
黒田
「だからだ」
健一
「怖すぎるでしょ!!」
彩花
「でも……」
少しだけ笑う。
彩花
「美咲なら、行くと思った」
美咲は、小さく頷く。
美咲
「逃げないって、決めたから」
沈黙。
だが——
その空気は、
もう迷いではなかった。
⸻
黒田が口を開く。
黒田
「……準備が必要だ」
全員を見る。
黒田
「これは、“交渉”じゃない」
一拍。
黒田
「国家の判断の場だ」
隆司
「つまり」
黒田
「言葉一つで、すべてが決まる」
健一
「無理ですって!!」
小林
「……無理でも行く」
静かに言う。
小林
「それが、あいつとの約束だ」
一瞬。
隆司が、小さく笑う。
隆司
「語り部、か」
小林は答えない。
だが、その沈黙が答えだった。
⸻
場面転換。
都内・高層ビル。
窓の外、東京の街。
男が電話を切る。
CIAエージェント。
「接触を確認」
一拍。
「対象は、首相公邸へ向かう」
受話器の向こう。
低い声。
「いい」
「計画を前倒しする」
男は、わずかに笑う。
「圧力をかける」
⸻
窓の外。
東京。
すべてが、動き出していた。
⸻
(つづく)




