第二十六話 湯気の中の侵入者
少しだけ、
日常に戻る――はずだった。
……そのはずだったのだが。
東京・銭湯
夜。
暖簾をくぐると、
ふわりと湯気が立ち込める。
外の冷たい空気とは、
まるで別世界だった。
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脱衣所
彩花
「……はぁ〜……生き返る……」
健一
「声大きいですよ……」
彩花
「いいじゃない、誰もいないんだし」
美咲は、静かに笑った。
美咲
「……たまには、こういうのもいいね」
彩花
「ですよね!」
隆司と黒田、小林はすでに男湯へ。
自然と、男女で分かれる形になっていた。
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女湯
湯気に包まれた浴場。
静かな水音だけが響く。
美咲と彩花は、
湯船に肩まで浸かる。
彩花
「……なんか、
やっと一息つけた感じね」
美咲
「うん……」
目を閉じる。
ここには、戦いも駆け引きもない。
ただ、温かさだけがあった。
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その時。
湯気が、わずかに揺れた。
ガラリ、と扉が開く音。
一人の女が入ってくる。
無言。
視線が――合う。
空気が、わずかに変わった。
女
「……仲村美咲さん」
彩花
「……え?」
美咲は、ゆっくりと目を開く。
逃げない。
ただ、見据える。
美咲
「……どちら様ですか」
女は一歩、近づく。
その動きに無駄がない。
女
「数分で終わります」
丁寧な口調。
だが、その一言で分かる。
――普通ではない。
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彩花が、わずかに身を引く。
その前に、美咲が一歩出た。
彩花を、さりげなく背にかばう。
美咲
「……その人に、用ですか」
女の視線が、わずかに揺れる。
すぐに戻る。
女
「あなたにも、あります」
一拍。
「我々は、紅型について話がしたい」
沈黙。
湯気の中で、言葉だけが浮く。
彩花(心の声)
(……来た……)
美咲(心の声)
(ここで、動くの……?)
女は淡々と続ける。
「紅型は、個人が扱うものではない」
「適切な管理が必要です」
「我々なら、それができる」
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美咲は、静かに息を吐いた。
そして。
美咲
「必要ありません」
即答。
迷いはない。
女の目が、わずかに細くなる。
女
「まだ、理解していないようですね」
「これは“提案”ではありません」
一歩、踏み込む。
湯面が、わずかに揺れた。
「状況の説明です」
美咲は、動かない。
ただ、言う。
美咲
「……それでも、断ります」
沈黙。
湯気の中、三人の距離だけが近い。
女
「……分かりました」
わずかに頷く。
「では、また改めて」
踵を返す。
去っていく足音。
やがて、扉が閉まる。
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静寂。
彩花
「……え、なに今の……」
美咲は、少しだけ肩の力を抜いた。
美咲
「……CIA」
彩花
「ですよね!?!」
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男湯側では――
別の空気が流れ始めていた。
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湯気の向こうで、
見えない戦いが始まる。
そしてそれは、
確実に彼らを巻き込んでいく。
湯の熱さだけが、
やけに現実だった。
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(つづく)




