第四話 静かな時代の終わり
士官学校での生活は、
尚造にとって穏やかな日々だった。
裁縫部での活動。
剣道部の防具修理。
洞窟演習。
そして何より、
剣道部長・薬丸との議論。
薬丸は現実主義の軍人。
尚造は理屈好きの職人。
性格は正反対だったが、
二人はよく語り合うようになった。
この回では、
そんな二人の政治談義と、
やがて訪れる卒業の場面が描かれる。
1924年。
士官学校の庭。
春の風が静かに吹いていた。
尚造は縁側に座り、防具を縫っていた。
薬丸が隣に腰を下ろす。
薬丸
「また縫っているのか」
尚造
「壊れたままでは使えませんから」
薬丸
「剣術より裁縫の時間の方が長いな」
尚造
「僕は裁縫部員です」
薬丸は小さく笑った。
薬丸
「軍学校で裁縫部に入る男はお前くらいだ」
尚造
「役に立ちますよ」
薬丸
「……そうかもしれん」
しばらく沈黙が続いた。
薬丸は空を見上げた。
薬丸
「世界は変わってきている」
尚造
「そうなんですか?」
薬丸
「新聞くらい読め」
尚造
「読んでいますよ」
薬丸
「なら分かるだろう」
薬丸は指を折った。
薬丸
「ヨーロッパは戦争で疲れた」
「アメリカは強くなった」
「中国は不安定だ」
「日本は資源がない」
尚造
「……」
薬丸
「こういう状況は」
「だいたい戦争になる」
尚造は少し考えた。
尚造
「でも」
薬丸
「なんだ」
尚造
「皆が嫌がれば、戦争は起きないのでは?」
薬丸は少しだけ笑った。
薬丸
「理想論だな」
尚造
「そうでしょうか」
薬丸
「国家は人間の感情で動く」
「恐怖」
「利益」
「誇り」
尚造
「……」
薬丸
「それがぶつかると戦争になる」
尚造は針を止めた。
尚造
「もし」
薬丸
「ん?」
尚造
「戦争になったら」
「どうすればいいんでしょう」
薬丸は少し考えた。
そして言った。
薬丸
「生き残れ」
尚造
「……」
薬丸
「軍人は勝つことを考える」
「だが」
薬丸は尚造を見た。
薬丸
「生き残ることも同じくらい重要だ」
尚造は静かにうなずいた。
尚造
「覚えておきます」
⸻
数か月後。
卒業式。
校庭には整列した学生たちが並んでいた。
軍楽隊の音が響く。
教官
「卒業生、前へ」
尚造は列の中にいた。
薬丸も同じ列にいる。
二人は小さく目を合わせた。
式が終わる。
学生たちはそれぞれの進路へ向かう。
薬丸
「沖縄へ帰るのか」
尚造
「ええ」
薬丸
「家業か」
尚造
「紅型です」
薬丸
「軍人にはならないのか」
尚造
「僕は職人ですから」
薬丸は少し笑った。
薬丸
「変わった奴だ」
尚造
「よく言われます」
薬丸
「だが」
薬丸は言った。
薬丸
「もし戦争が来たら」
尚造
「はい」
薬丸
「お前の知識は役に立つ」
尚造
「……」
薬丸
「地形」
「補給」
「修理」
「判断」
尚造
「そんなに役に立つでしょうか」
薬丸
「立つ」
尚造は少し照れた。
尚造
「ありがとうございます」
薬丸は歩き出した。
そして振り返る。
薬丸
「尚造」
尚造
「はい」
薬丸
「次に会う時は」
「戦場かもしれんな」
尚造は少し笑った。
尚造
「その時は」
「防具を直します」
薬丸
「……」
薬丸は大きく笑った。
薬丸
「やはりお前は変人だ」
尚造
「光栄です」
二人は握手した。
その後。
尚造は沖縄へ帰る。
薬丸は軍へ残る。
そして二十年後。
二人は本当に再会する。
それは――
沖縄の戦場だった。
⸻
(つづく)
ここまでお読みいただき、
ありがとうございました!
士官学校編、いかがでしたでしょうか?
尚造と薬丸のやり取りは、
作者としてもとても楽しく書けたパートでした。
本当はこの二人の士官学校時代、
もう少し描きたかったのですが――
物語全体の流れとのバランスを考えて、
今回はここまでにしています。
……とはいえ、
まだまだ見たい関係でもあるので、
もしどこかで続きを見かけたら、
こっそり喜びます。
※裁縫部×剣道部の平和な世界線も
ちょっと見てみたいですね
⸻
そして次回――
舞台は海を越え、アメリカへ。
八原、留学編。
価値観も戦術も、
すべてが異なる世界で、
彼は何を見て、何を学ぶのか。
※少し雰囲気が変わります
⸻
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