第五話 アメリカの友人
1933年。
日本は国際連盟を脱退し、
世界の空気は少しずつ変わり始めていた。
その頃、ある日本人将校がアメリカにいた。
八原博通。
冷静な参謀タイプの青年。
そして彼は、
兵学校で一人の変わった友人と出会った。
その男の名前は――
ジョン・スティーブンス1世。
軍人でありながら、
“文化財オタク”だった。
1933年。アメリカ。
兵学校の図書室。
静かな部屋の中で、
八原は資料を読んでいた。
机の上には地図と軍事書。
八原(心の声)
(この国は……大きい)
(資源、工業力、人口)
(もし戦争になれば、日本は勝てない)
八原は静かに本を閉じた。
その時だった。
後ろから声がした。
ジョン
「その地図、ヨーロッパ戦線かい?」
八原
「……」
振り向くと、
金髪の青年が笑顔で立っていた。
制服の胸ポケットには
鉛筆が何本も刺さっている。
八原
「そうだ」
ジョン
「君、日本人だよね?」
八原
「八原だ」
ジョン
「ジョンだ」
ジョンは椅子に座った。
ジョン
「日本の将校はみんな地図が好きなの?」
八原
「参謀はそうだ」
ジョン
「なるほど」
ジョンは机の上を見た。
ジョン
「これは何?」
八原の本の間から、布が少し見えていた。
八原
「?」
八原は布を取り出した。
それは紅型だった。
沖縄の模様が染められた布。
ジョンの目が光った。
ジョン
「美しい」
八原
「……」
ジョン
「これは何だ?」
八原
「染物だ」
ジョン
「いや、芸術だ」
ジョンは布をじっと見た。
ジョン
「この色」
「この模様」
「この配置」
ジョン
「完璧だ」
八原
「……」
八原は少し困った顔をした。
八原
「友人が作った」
ジョン
「友人?」
八原
「沖縄の職人だ」
ジョン
「紹介してくれ」
八原
「難しい」
ジョン
「なぜ?」
八原
「沖縄は遠い」
ジョン
「……」
ジョンは少し考えた。
そして言った。
ジョン
「いつか行く」
八原
「……」
ジョン
「文化財を見るのが好きなんだ」
八原
「軍人なのにか」
ジョン
「軍人だからだ」
八原
「?」
ジョン
「戦争は文化を壊す」
ジョン
「だから」
「その前に見ておきたい」
八原は少し黙った。
八原
「面白い考えだ」
ジョン
「君の友人」
「紅型職人」
「変わっているのか?」
八原は少し笑った。
八原
「かなり」
ジョン
「どんな?」
八原
「軍学校で裁縫をしていた」
ジョン
「……」
ジョンは笑った。
ジョン
「最高だ」
八原
「?」
ジョン
「変人は好きだ」
八原
「安心した」
ジョン
「なぜ?」
八原
「私の友人は変人だからだ」
二人は少し笑った。
窓の外では、アメリカの旗が揺れていた。
この時、まだ誰も知らない。
十数年後。
この二人が、
沖縄で同じ戦争を見ることになることを。
⸻
(つづく)




