第三話 士官学校の変人(続)
士官学校には様々な学生がいた。
剣術が得意な者。
戦術を研究する者。
体力自慢の者。
そして――
裁縫が得意な者。
この回では、士官学校の学生たちが
少しずつ「尚造は普通ではない」と気づき始めた。
1922年。
陸軍士官学校。
午後の演習場。
学生たちは白い息を吐きながら、訓練を続けていた。
薬丸は腕を組んで、その様子を見ている。
薬丸
「……仲村はどこだ」
部員
「さっきまで裁縫してました」
薬丸
「……」
薬丸は遠くを見た。
そこには、縁側で防具を縫っている尚造がいた。
薬丸
「おい」
尚造
「あ、薬丸さん」
薬丸
「少し付き合え」
尚造
「はい?」
薬丸は竹刀を渡した。
薬丸
「構えろ」
尚造
「え?」
薬丸
「訓練だ」
尚造は困った顔をした。
尚造
「僕、裁縫部員なんですが」
薬丸
「関係ない」
周りの学生たちが集まってきた。
学生A
「裁縫部員と剣道部?」
学生B
「面白そう」
尚造は竹刀を持った。
尚造
「……では」
薬丸は軽く構えた。
薬丸
「打ってこい」
尚造
「え」
薬丸
「いいから」
尚造は少し考えた。
そして――
動かない。
薬丸
「どうした」
尚造
「いえ」
「その」
「避ければいいのかなと思いまして」
次の瞬間。
薬丸が一歩踏み込んだ。
「面!」
尚造――ひょい。
学生たち
「!?」
薬丸
「……」
薬丸はもう一度踏み込む。
「胴!」
尚造――するり。
学生A
「え?」
学生B
「当たらない」
三回。
四回。
薬丸の竹刀は、
なぜか当たらない。
薬丸
「……なぜ避けられる」
尚造は真顔で答えた。
尚造
「針仕事です」
薬丸
「は?」
尚造
「細かい作業をしていると」
「物の動きがよく見えるんです」
学生たち
「……」
薬丸は竹刀を下ろした。
薬丸
「……やめだ」
尚造
「ありがとうございます」
学生A(小声)
「裁縫部怖い」
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数週間後。
士官学校の野外演習。
学生たちは山へ向かっていた。
教官
「今日は洞窟宿営だ」
学生たち
「えぇ……」
薬丸も顔をしかめた。
薬丸
「湿気がひどい」
その時だった。
尚造の目が輝いた。
尚造
「洞窟ですか?」
教官
「そうだ」
尚造
「楽しみですね」
学生たち
「?」
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夜。
洞窟の中。
学生たちは不満そうだった。
学生A
「暗い」
学生B
「寒い」
学生C
「湿気が……」
その横で――
尚造だけが楽しそうだった。
尚造
「面白いですね」
薬丸
「……何がだ」
尚造
「この地形」
尚造は壁を見ながら言った。
尚造
「湿気がある」
「空気の流れがある」
「つまり出口が複数あります」
薬丸
「……」
尚造
「防御にも使えますね」
薬丸
「……戦場かここは」
尚造はにこにこしていた。
尚造
「沖縄にも洞窟が多いんです」
薬丸
「そうなのか」
尚造
「ええ」
尚造は少し考えて言った。
尚造
「首里城の地下にも」
「こういう防空壕があるといいですね」
洞窟の中が静かになった。
学生A
「……防空壕?」
学生B
「首里城の地下?」
薬丸
「……」
薬丸は尚造を見た。
薬丸
「お前」
「時々怖いことを言うな」
尚造
「そうですか?」
薬丸
「まだ戦争は起きていない」
尚造
「そうですね」
尚造は少し笑った。
尚造
「でも」
「もしもの話です」
洞窟の外では、
風が静かに吹いていた。
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まだ誰も知らない。
二十年以上後。
沖縄の地下壕で、
この言葉が現実になることを。
⸻
(つづく)




