あらすじ・登場人物の紹介
1925年。
沖縄の小さな村。
仲村家では、
今日も静かな夜が流れていた。
仕事を終えた隆造が、
机の上の紅型の図案を見つめている。
その横で、文が静かに座っていた。
「難しいですか?」
文が小さく聞く。
隆造は、少し笑った。
「いや。
少し考えていただけだ」
紅型の図案は、
ただの模様ではない。
海の流れ。
島の形。
人の暮らし。
それらすべてを
一枚の布に閉じ込める。
「これはね」
隆造はゆっくり言った。
「島の地図のようなものだ」
文は驚いたように
布を見つめた。
沖縄の海。
島々。
珊瑚。
魚。
確かにそこには、
小さな世界が描かれていた。
隆造は筆を置く。
「尚造は、
この布を見るのが好きでね」
文は少し微笑む。
尚造は、少し変わった青年だった。
布の模様を見て、
海を思い、
島を思い、
人の暮らしを思う。
そんな男だった。
だが隆造は知っている。
あの男は、
ただの職人では終わらない。
世界を見る目を持っている。
隆造は静かに思った。
――この子は、
遠くを見る人間になる。
だがその夜、
仲村家の灯りの下では、
ただ静かに、
夫婦の時間が流れていた。
まだ誰も知らない。
この穏やかな日々が、
やがて
熊本
上海
兵学校
そして
戦争へと繋がっていくことを。
※外伝・尚造夫婦編は全9話です。
登場人物一覧
・仲村尚造
紅型職人。1895年生まれ。
物静かだが観察力が鋭く、物事を深く考える性格。
緑茶とみかんが好き。
・仲村文
尚造の妻。1910年生まれ。
穏やかで優しい女性。
尚造の世界を少しずつ理解していく。
・仲村隆造
尚造の父。紅型職人。
家族と工房を守る静かな柱。
・尚綾
尚造の母。
人生経験豊富で勘が鋭い。
・八原博通
陸軍将校の青年。
尚造と文の人生に、思いがけない形で関わっていく。
・林玉蘭
上海の女性。林明浩の祖母。
美しく聡明で、異国の文化を知る人物。
・比嘉秀伍
日露戦争を経験した老人。
海を知る男であり、仲村家の近所に住む。
・ご近所の皆さん
噂話と恋バナが大好きな村の名物存在。




