表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第二部 隆造編後編 ― 時代に裂かれる布 ―
100/137

第二十七話 その布は、海を越えていく

兵学校の仕事は、

想像以上に厳しかった。


尚造は久しぶりの休暇にも関わらず、

どこか疲れた顔をしていた。


それを見た隆造は、

ただ一言だけ言った。


「今日は工房を手伝え」


それは、父なりの気分転換だった。

朝の市場。

 

潮の匂いと、人の声が混ざり合う。


仲村工房の屋台には、

色鮮やかな紅型が並んでいた。


隆造は黙々と布を畳み、

尚造は少し眠そうに座っている。


隆造が言った。


「兵学校はそんなに忙しいのか」


尚造は苦笑した。


「はい。ほとんど寝る時間がありません」


隆造は頷いた。


「なら働け」


「え?」


「布を売るのも修行だ」


挿絵(By みてみん)


尚造は笑った。


「兵学校より大変そうですね」


隆造は真顔で言う。


「兵学校より人が怖いぞ」


尚造は吹き出した。



昼頃。


屋台の前に、

背の高い外国人が立った。

金髪の青年だった。


彼は布を見て目を輝かせる。


「Oh! Beautiful cloth!」

(おお!美しい布ですね!)


尚造は少し驚きながら答えた。


「Thank you. This is Bingata, a traditional dye from Okinawa.」

(ありがとうございます。

 沖縄の伝統染め、紅型です)


外国人は布を手に取った。


「Amazing colors!」

(すごい色だ!)


そして一枚の布を広げる。


それは――

首里城観光地図紅型

だった。


首里城を中心に、

町、港、海の流れまで描かれている。


外国人は目を丸くした。


「Is this a map of Shuri Castle?」

(これは首里城の地図ですか?)


挿絵(By みてみん)


尚造は頷く。


「Yes. It shows the town around it.」

(はい。あとその周辺の町を描いています)


外国人は興奮していた。


「Wonderful! I want this.」

(素晴らしい!これを買います)


尚造は丁寧に布を包む。


外国人が聞く。


「Who made this map?」

(この地図は誰が作ったのですか?)


尚造は少し照れながら言う。


「I did.」

(私です)


外国人は驚いた。


「You? You’re very talented!」

(あなたですか?すごい才能だ!)


隆造が横から言う。


「地図が好きなだけだ」


尚造は苦笑した。



外国人は地図を見ながら言った。


「This castle… who owns it?」

(この城は誰のものですか?)


尚造は答える。


「Originally the Ryukyu Kingdom.」

(もともとは琉球王国の城です)


外国人は頷く。


「Culture belongs to everyone.」

(文化はみんなのものですよ)


尚造は少し驚いた顔をした。



外国人が去ったあと。

隆造は布を畳みながら言う。


「売れたな」


「はい」


隆造は地図紅型を見る。


「線が変わった」


尚造は顔を上げた。


「線?」


隆造は言う。


「前は"飾る布"だった」


「今は"読む布"だ」


尚造は少し考え込んだ。



夕方。


市場は静かになり、

二人は屋台を片付けていた。


尚造が言う。


「父さん」


「ん」


「もし大切なものを

 一つの国が持つから争いになるなら」


隆造は黙って聞いている。


「複数の国で守れば

 争わなくて済むんじゃないでしょうか」


隆造はしばらく沈黙した。

そして言った。


「世界のことは分からん」


紅型を持ち上げる。


「だが布は、人を繋ぐ」


尚造は静かに頷いた。



帰り道。

夕焼けの海。


挿絵(By みてみん)


尚造が言った。


「父さん」


「紅型は海を越えると思います」


隆造は歩きながら答える。


「そうか」


尚造は続ける。


「世界に広がるかもしれません」


隆造は少し考えて言った。


「送料が高い」


尚造

「父さん」



場面転換


遠い海の向こう。

上海。


ある外国人商館の書斎。


一人の男が布を広げていた。


ジョン・スティーブンス1世。


文化財収集家だった。


彼は布を見つめて呟く。


「Beautiful…」

(美しい)


助手が聞く。


「Sir, what is it?」

(何ですか、それは?)


ジョンは静かに答える。


「This is not just a map.」

(これはただの地図ではない)


布を撫でる。


「This is culture.」

(文化だ)


助手が聞く。


「Where did you get this?」

(どこで手に入れたのです?)


ジョンは笑った。


「Okinawa.」

(沖縄だ)


そして言う。


「Maps show borders.」

(地図は国境を示す)


「But this one…」

(だがこの地図は)


「connects the world.」

(世界を繋いでいる)


彼は静かに呟いた。


「I must meet the artist someday.」

(いつかこの作者に会わなければ)


だが――


その作者の名を、

彼はまだ知らなかった。



(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ