↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラス転移で俺だけ無職!!  作者: 鈴也
冒険の始まり
4/5

4.現状把握

「……リカ? あたしの名前はリリカよ。変なところでも打ったの?」


 目覚めてすぐの言葉に困惑する少女、リリカは少年の顔を心配そうに覗き込む。少年の表情は困惑一色で、まるで自分がどこにいるのか、どういう状況なのかわからないと言った感じだ。


 それも無理もないだろう、今の彼は―――。


(……俺は車にひかれた・・・・・・んだよな? 何だこの状況、ていうかどこだここ?)


 『地球』の日本出身の高校生、君島勇樹なのだから。


――――――


「どう? 落ち着いた? あんまり心配させないでよね……まあ、庇ってくれたことには感謝してるけど。それよりも、早くここから離れなくちゃ。まだ近くにガルムがいるかもしんないし」


 勇樹が目覚めた後の数分間、彼等はその場にとどまっていた。混乱状態の勇樹をリリカが落ち着くまで待っていたからだ。しかし、まだ森の中でいつガルムや他の魔物、猛獣に襲われてもおかしくない状況で、このままじっとしている訳にもいかず、リリカが勇樹を心配しつつも催促する。


(何だこれ、記憶が混濁っていうか、俺以外・・・の記憶? わけわからん、そもそも町中からいきなりこんな知らない森の……くそ、知らないけど知ってるぞ、森も目の前の女も。マジでわかんねぇ、俺って結局死んだの? それとも実は生きてて変な夢を見てるとか? でも、この俺以外の記憶の意味がわからんし、何より側頭部辺りが痛いから夢ってことはないんだよな………)


 呼びかけられた本人は、それすらも耳に入っていないようだが。


「ああもう、無視しないでよ!!」


 痺れを切らしたリリカが勇樹の肩に手をつきながら耳元で叫ぶ。


「———っ!?」


 思考の渦に落ちていた勇樹は、突然の衝撃に思わず耳を押さえながら飛びのく。そして、原因となった少女を視線でとらえて抗議の声を上げる。


「——いきなり耳元で怒鳴るなよ!! 耳がおかしくなるだろう!!」

「だってあんた、何回呼びかけても反応しないんだもん。目を開けたまま寝てるのかと思ったのよ」

「目を開けたまま寝れるかバカ!! ちょっと考え事をしてただけだろ……」

「何似合わない事してるのよ。それより早く村に帰って父さんに森での事報告するわよ。………何であたしの顔じっと見つめてるのよ?」


 意識外からの口撃で思考の渦から脱出した勇樹は、そのままの流れでリリカと会話、もとい口論をする。しかし、口論をするということは当然相手の顔を見ることになる。そして、見つめた先の相手の顔を何かを確かめるようにじっと見つめる。


 さらさらとした肩より上で切りそろえられた金髪、きりっとしている髪色と同じ眉、少し猫目のクリっとした目、形の整った鼻や口。余すことなく、確認するかのように見つめる勇樹。

 それも仕方のない事だろう。

 ———似ているのだ。細部は違うが、彼の幼馴染の『一ノ瀬梨花』に。


「い、いつまであたしの顔見てるのよ!! いい加減にしろ!!」

「うぉ!?」


 ドンっとリリカが勇樹を突き飛ばす。実の所、リリカの顔を確認している内に距離が近づいていき、目と鼻の先で見つめ合う状況になっていたのだ。その証拠というわけではないが、リリカの顔が羞恥で真っ赤になっている。


「いってぇ…、何すんだよいきなり」

「何すんだって、こっちの台詞よ! 反応するようになったと思ったら、人の顔をじっと見つめて、そればかりか、あ、あんなに顔を近づけて何のつもりよ!!」

「ん? ああ、悪い集中してて気づかなかった。つーか、そんなに怒ることでもないだろ」


 年頃の少女に顔をギリギリまで近づけては怒られるのは当然だ。日本なら通報されてもおかしくはない。

 その後も、ギャーギャーと言い合う二人……、騒いでるのはリリカだけだが。いずれにしてもそれは、周りを気にしない声量でだ。

 しかし、二人がいるのは未だに森の中だ。当然、騒いでいれば近づいてくるものもいるわけで―――。


『グルルルッ!!』

「何だ!?」

「あ、そうだった!?」


 いつの間にか近づいていたガルムの唸り声。突然の乱入者の声に、言い合いをしていた二人は声の聞こえた方向を振り向く。そこには、木々の隙間からではあるが、ガルムの姿があった。


「やばっ! こんな事してる場合じゃなかったっ」

「!? 何だあれ、見たこと…、いや、記憶にはあるぞ。くそ、意味が分かんねぇ」

「何変な事言ってんのよ! 早く逃げるわよ! 何か、あたしたちの方見てないし」


 ガルムの接近により、今更ながらに現状を思い出したリリカ。日本、というか地球上に存在しない生物を見て、それでも記憶の中には存在する生物に混乱する勇樹。幸運にもガルムは気付いていないようだ。では、何と対峙しているかというと……。


『ウォーーーン』


 狼だ。声の数からして数匹はいるだろう。どうやら、勇樹達の騒ぎ声につられてきたのはガルムだけではなかったようだ。どちらにしても、この場を離れた方がいいのは一目瞭然。何せ、リリカはともかく勇樹はまともに戦うことが出来る状況ではないのだから。


「ほら、狼とガルムがやりあってるうちに行くわよ!」

「あ、ああ。わかった」


 流石に自分が置かれている状況が分かった勇樹は、素直にリリカの指示に従って走り出した。


――――――


 あれから、何事もなく森を抜けた勇樹達。彼らは森での出来事を報告するべく、リリカの家に向かっていた。


「結局何だったんだろ? いつもと森の様子が違うのはわかったけど……」

「ああ」

「原因が全然わかんないわよね。これじゃなんて報告すればいいのかもわかんないじゃない」

「ああ」

「これじゃ、また言い訳すんなって怒られちゃう」

「ああ」


 ピタッと、リリカの足が止まる。勇樹はそのまま歩き続けて、リリカが止まったことにも気づかないようだ。

 リリカの肩が震え、みるみるうちに目が据わっていく。


「……無視すんなー!!」

「んぁ? ……返事はしてただろ?」


 どうやら、勇樹としては先程から壊れたラジオのように呟いていた言葉が、リリカに対しての返事だったようだ。誰がどう聞いても適当な相槌だったが。


「あんたもちゃんと考えなさいよね! 森の中がおかしいの明らかなんだから!」

「あ? ああ、そうだな」

「そうだな、じゃないわよまったく」


 勇樹がちゃんとした? 返事をしたことでリリカが再び歩き出しながら、あーでもない、こーでもないと森の以上の原因を口に出していく。その事に勇樹は再び壊れたラジオになりつつも考える。


 森の事ではない、彼の置かれた状況についてだ。


(今の状況が夢ではないのは確実だ。かといって、ここが日本、というか地球ですらなさそうだが……、いずれにしろ、車に撥ねられる前の場所ではないのは何故? それに、俺のじゃないこの記憶。落ち着いてきたらだんだんはっきりしてきたけど、どう考えてもおかしい。まるで、俺じゃない誰かの身体に乗り移ったみたいだ……。くそ、一度ゆっくり考える時間が欲しいな)


 勇樹は器用にも考え事をしながら壊れたラジオをしていたが、当然それではリリカの怒りに触れるわけで―――。


「ちょっと! いい加減にしなさいよね!」


 頬を膨らまして怒鳴るリリカ。それも仕方がないだろう、相方がひたすら同じ言葉を繰り返しているのだから。

 かといって、勇樹も現状を早く理解したいので譲れない。このまま何もわからないという状況で、流されたままに行動しては問題になると思っているからだ。

 どうしたものかと、目の前の少女を見つめる勇樹。と、ここで何かを思いついたのか、「あっ」と小さく声を出した。


「悪いリリカ。まだ頭が少し痛むから家で休んでくるわ」

「今小さくあっ、って言わなかった? ……仕方ないわね、わかったわよ。あたしだけで父さんに報告しとくからあんたは休んでていいわよ」

「悪いな。助かる」


 言質を取った勇樹は自分の、いや、記憶の持ち主の家へと足を向け歩き出した。


「……何よ。素直に礼なんか言っちゃて。らしくないわね、ホントに変なところでも打ったんじゃないかしら……」


 囁くようなリリカの声は、歩き出した勇樹の耳には届かなかった。


――――――


「さて、とりあえずこの自宅っていっていいかわからないが、記憶にある家に来たが……、とりあえず状況を整理しよう」


 リリカと別れた後に到着した家、1階建てのそれなりの大きさで木造だ。どうやら、記憶の持ち主はここに一人で住んでいるらしい、記憶によればだが。

 そこで勇樹は、現状の把握に努めることにした。言い訳にした頭の傷は実際はそれほどでもなく、血はすでに止まっており、痛みも勇樹が気にしていない様子なので、それほどでもないのだろう。


 そこで、勇樹は現状について一から確認していく。


 まず初めに勇樹は地球で、幼馴染の里香を庇って車に轢かれた。轢かれたときの痛みも覚えているから間違いない。その後、意識を失って目を覚ましたら見知らぬ森の中。これだけでも超常現象だが、さらに目が覚めて以降、徐々にはっきりしていく別人の記憶。そして、幼馴染と瓜二つと言ってもいいほど似ている少女に出会う、といっても出会うというのは語弊がある。なぜならば、別人の記憶によれば、彼もまた幼馴染・・・と思われる少女と意識を失う前から行動していたからだ。


(そういえば、花蓮が好きで読んでた小説に似たようなのがあったような……?)


 勇樹はそこまでまとめてから、ふと妹の花蓮の事を思い出す。


(確か、異世界転生だか召喚だか忘れたけど……、これってそういうことなのか? でも、明らかに自分の身体じゃないんだよな)


 そうなのだ、実の所勇樹は家に戻ってから自分の姿を鏡で確認している。確認した姿は顔こそ瓜二つであったが、髪色は黒だったのが明るめの茶髪になっており、頬に薄っすらと何かで切られたような傷跡があった。当然、勇樹の元の体にはそんな傷はついていなかった。それと、明らかに元の身体よりも筋肉量があり、特に運動をしていなかった勇樹とはまるで違っていた。


(他には何かあったけかな……、あっ、記憶の持ち主が前世の記憶を思い出したとか、そういうのもあったな。……それならありえるか? だとしたら、このまま記憶の通りの人格で過ごす? まあ、とりあえず記憶を思い出したという方向で考えてみるか)


 一先ず自分の現状に区切りをつけた勇樹は、次に身体の持ち主の記憶を纏めることにした。


 持ち主の名前は『ユーリ』、年は勇樹と同い年だ。鏡で確認した時の見た目はほぼ、勇樹と同じ。頬に傷があるのと、茶髪であること意外でいえば、少し目が鋭いくらいの違いしかない。

 性格は好奇心旺盛、直情径行、即断即決、思うままに行動するを時で行くスタイルだ。当然、行動力があり、家でじっとしている事ができない。勇樹とは真逆である。

 そんな性格を真似て、親しい人物に偽って過ごしていく―――。


(あ、無理だこれ)


 無理に決まっている。


 ではどうするか、再び頭を悩ませる勇樹はユーリの記憶を頼りにこの世界の事を纏めていく。


 世界の名前は『ガイア』。偶然にも地球にも存在している言葉だ。意味は女神、地母神、大地の象徴などと色々あるが、違う世界での言葉だ、同じ意味ではないだろう。言葉とでたが、この世界で使われている、というよりこの地域で使われている言葉はどうやら、英語に似た言語らしい。というのも、勇樹は一般の高校生だ、英語の正しいヒアリングなどできはしない。しかし、使っている言葉(ユーリの記憶のお陰で普通に話せる)の端々に英語の授業で使われていたような言葉が存在していた。


 言語に関して考えても仕方ないと、勇樹は頭を振って次の事を考え始めた。


 次に勇樹が考えたのは生活についてだ。というのも、ユーリの記憶や家に着くまでの道のり、家に着いてからも存在している明らかに地球では存在していない『それ』が地球ではない事の事実を突きつけているからだ。

 それは、『魔石』と呼ばれるものの存在だ。

 記憶によると魔石、無色や赤、青、緑と様々な色があり、色により『属性』と言うものが付いている。無色なら無属性、赤なら火属性といった具合に。

 それで、その魔石が何に使われているのかと言うと、生活全般である。例えば、火をおこすのには火属性の魔石、水を出すのなら青色の水属性の魔石、風を起こすなら緑色の風属性、光が欲しいのなら白色の光属性を使用する。

 要するに地球では『科学』、ガイアなら『魔石』を使用しての文化が広がっているのだ。地球で魔石みたいなものが見つかっていれば、ニュースにならない訳がない。それくらいに多種多様なのだ。


(ファンタジーだなぁ)


 地球とは異なる世界ということを改めて自覚した勇樹は、現実逃避気味に窓から外を見る。

 そこには、遊びの一環なのか訓練なのか、小学校ぐらいの子供たちが木剣で打ち合っているのが見えた。これまた地球では見られない光景だ。


「っと、現実逃避してる場合じゃない、まだ、この世界についてまとめてるだけじゃねぇか」


 現実逃避に向いていた思考を切り替えて、勇樹は次の事に考える。


 次は仕事について、勇樹の今後についての本題だ。

 といっても、あくまでもユーリの記憶のみだから正直心もとない。まあ、それ以外に頼れるものがないので仕方がないが。

 実の所勇樹は仕事について、もうすでに目星をつけていた。というより、それしかなかったというべきだろう。何せ、それ以外は村人での生活から離れることが出来そうになかったからだ。

 その仕事は『冒険者』というものだ。名前の通り、冒険者というものは冒険をするもので、一つの場所に根を下ろすということをあまりしないらしい。

 それで、冒険者が何をするものかと言うと、その仕事は多種多様であった。

 例えば、腕に自信があるものは魔物を狩るという危険な仕事で金を稼ぐ。何故魔物を狩ると金が稼げるというかと言うと、先の魔石を魔物が落とすからだ。生活に欠かせない魔石を取ってくれば金になるのは当たり前だ。

 他には、未知の領域での調査、これは腕に覚えがあり尚且つ信頼がある冒険者が、国のお偉方に指名されて依頼されるという特殊なものだ。簡単なもので言えば、リリカと共に行っていた狩りで、食材や資材となるものを狩ってきて売りつけたり、山や川、森などで食材、薬の原料となるものを採取したりするものがあるそうだ。

 冒険者について考えを纏めていた勇樹は溜息をついた。


「はぁ、選択肢がないとはいえ、嫌だなぁ。……動きたくない」


 そうなのだ、基本的に肉体労働しかないのだ。将来は家から出ない仕事がいいと言っていた勇樹には苦痛でしかないのだ。

 だからといって、諦める彼ではない。


「いや、とりあえず村から出る口実というだけで、実際に冒険者になる必要はないはずだ。どこか大きな町で外に出ないで出来る仕事を探せばいいじゃないか」


 はっはっはっと高笑いを上げる勇樹。彼の性格は世界が変わったくらいでは治らないようだ。


「しかし、運がよかったというかなんといか、ユーリも冒険者になるつもりだったんだな」


 どうやら、勇樹の言う通りでユーリは冒険者になるつもりだったようだ。だから、冒険者について詳しかったということだ。


「さて、そうなるとどういって村からでるか……。いっそ、夜にでも抜け出してみるか? いや、それは現実的じゃないな。ならどうする?」


 これからの方向性が決まった勇樹は、今度は村をどうやって出るかを考える。しかし、それがまた難しい事に気付いて頭を悩ませた。

 一つ目の案として直ぐに上げられた、夜に誰の目にも触れずに村を出る。これは現実的ではないと、勇樹は直ぐに却下した。一言で言えば危険だからだ。何故ならば、先の森でも遭遇した魔物、この存在がネックになるからだ。

 魔物は基本的に昼夜関係なく行動している、彼らは休むことがないからだ。魔素と呼ばれるもので構成されている魔物は疲弊する機関というものがないのだ。従って、暗い夜道を一人で歩くなど、いくら平原には魔物が少ないと言われていても危険な事には変わりない。ましてや、元々高校生だった勇樹はまともに戦闘が出来るとは思っていないのだから。


 それ以外の案として、元々ユーリが冒険者になるための物があるが、これも現実的ではなかった。何故ならばその条件が、リリカの父親であるヴェルノからの試験で合格であるからだ。その試験というのは、一人でガルムを5匹狩って来るというものだ。戦うこと前提なので、これも勇樹によって却下される。


 その他にも色々と考えていくがどれも現実的じゃないと納得のできない勇樹。


「あ~、手詰まりだ。何も思いつかん……、あれ、いつの間に暗くなってたんだ?」


 勇樹は考えるのをやめて、辺りに夜の帳が訪れていることに気付く。どうやら、色々と考えを巡らせている間に随分と時間が経っていたようだ。


「腹減ってきたなぁ、何か適当に食べるか」


 森から帰ってきてから数時間、流石に飲まず食わずで思考し続けた勇樹は家の中を物色し始めた。


「おお! 電気がないのに冷蔵庫として機能してる。魔石ってのは凄いな、マジで万能なんだな。……碌な食材がないな。まぁいいか、確かこっちにパンがあったからそれで済ますか」


 冷蔵庫と思われる箱を調べ、少量の肉と野菜しかなかったので、勇樹は近くの棚にしまっていたパンを手に取り、先程の場所へと戻る。


「しかし、変な感じだな。知らないはずなのに知っているっていうのは」


 勇樹は自分の記憶とユーリの記憶の差異に違和感を感じつつ、食事を始めた。


 勇樹が食事を初めて数分、最後の一切れを口に入れ、今後の方針を再度考えようとしたときに玄関の戸が叩かれる音がした。


「ん? 誰だ?」


 勇樹が突然の訪問者に応対するために、席を立ちあがったと同時に玄関の戸が開かれる。


「ねぇユーリ~! いるんでしょ? 話があるからちょっと――って、いたいた。森の事で報告があるからちょっと時間頂戴」


 戸を叩いてからのタイムラグなしに入ってきたのは、先程分かれたばかりのリリカであった。


「……一応聞いておくが戸を叩いた意味は?」

「ん? いつもこんな感じじゃない、どうしたのよ」


 どうやら、リリカの中で玄関の戸を叩いて直ぐに開けるのは常識の様だ。まあ、幼馴染であるユーリだからというのもあるのだろうが。勇樹は里香とは全然違うなと、小さくため息をついた。

 それはともかくと、リリカの訪問の理由を勇樹は尋ねてみる。


「……それで? こんな時間に何の用だ? 別に報告するだけなら明日でもいいと思うんだが……」

「明日じゃダメなのよ、忘れるかもしんないし。それに、報告って言っても明日の朝に広場に集合ってだけだから大したことないのよ」


 夜中に尋ねた理由が忘れるかも、というのはリリカの記憶能力が心配になるが、明日の朝に集合というのはどういうことかと勇樹は首を傾げる。


「広場に集合って、何するんだ?」


 勇樹はその理由が気になり、リリカに尋ねてみた。


「ん~、理由まではわかんないけど、結構やばいかもしんないのよねぇ。父さんに森の事話したら険しい顔になってたし……」

「険しい顔って……」


 リリカの返答に勇樹は思わず顔を顰める。ユーリの記憶からヴェルノの性格を考えると、悪い予感しかしないからだ。


「それじゃ、伝える事伝えたからあたしは帰るわよ」

「あ? ああ、わかった。じゃあな」

「バイバイ」


 勇樹は慌ただしい少女だと思いつつ、リリカを見送った。


(マジか~、今後の事も決まってないのに厄介ごととか勘弁してくれよ……)


―――――――――


 翌朝、今後の方針を考えていた勇樹は碌な睡眠もとれずに広場までの道を歩いていた。


 村の広場は村人の全員が集まれるくらいの広さがあり、そこにはリリカが声をかけて回ったのか、それなりの人数が集まってきていた。

 その広場まで到着した勇樹は眠気眼をこすり、欠伸を噛み殺しながらも周囲を見回した。


「何かやけに人が多いな……」


 今も尚集まってきている村人の多さに不安を覚えながらも、勇樹は昨日の事について思考を巡らす。


(結局、碌な案が出ないままだったなぁ。とりあえず、記憶の整理はつけて日常会話くらいならこなせるとは思うけど……、問題の先送りでしかないんだよな)


 昨日の晩に今後の方針、具体的には冒険者になるための手順を考えていた勇樹は、実の所、何の案も考えられずにいた。その事に小さく溜息をついたことで、現状について思考を切り替える。


「それにしても……、こんなに村の人が集まってるってことは、明らかに普通じゃないよなぁ」


 ユーリの記憶を探ってみても例のない事態に不安が膨らんできている勇樹。再度溜息を吐きながら、事態が動くまで待つことに決めた。

 すると、その背後からふいに声をかけられる。


「おはよ~。……何辛気臭い顔してんのよ? 朝から元気ないわね」

「……うるせぇよ」


 陽気に声をかけてきたリリカは、辺りの様子を気にしていないのか、普段の彼女と特に変わった所は見受けられない。


「逆に聞くが何でそんなに元気なんだよ。周りの様子からして異常事態だろうが」

「だって、まだ何もわかんないのに気にしたって仕方ないじゃない」


 勇樹の言葉に、よく言えば前向き、悪く言えば能天気に返答するリリカ。どうやら、彼女も結局何も聞かされないままにここに来ているようだ。


 勇樹の不安がさらに大きくなる。


 それもそのはず、勇樹はユーリの記憶からヴェルノの性格はある程度把握しているのだ。


 リリカの父であるヴェルノは、一言で言えば豪快という言葉で表現できる。彼の性格は親子だけあってリリカに似ているが、流石に大人だけあって思慮深い一面もある。もし仮に、森での出来事が大したことでなければ、リリカをメッセンジャーにして報告を済ましているはずだ。


 そんな、性格であるヴェルノがわざわざ村人を集めたのだ。何か良くない事が起こっていると言っても過言ではないだろう。


 ザワザワと人が多くなるにつれて騒がしくなる広場。時折、勇樹の耳に入ってくる言葉は「何があったんだ?」とか「もしかして……」とか「何か事件でもあった?」などと言っており、誰もかれもが呼ばれた理由がわかっていないようだった。


 そして、村人のほぼ全員が集まってきたかという所で、広場の中心辺りからヴェルノの声が響きわたる。


「皆、よく集まってくれた!! 突然の招集に集まってくれて感謝する!!」


 ヴェルノの、広場に呼んだ本人の登場により、先程までざわついていた広場が静寂に包まれた。

 辺りを見回し、村人が自分の言葉に耳を傾けている事を確認したヴェルノは、続く言葉を吐き出すために大きく息を吸い込んだ。


「緊急事態だ!! 騒がずに聞いてほしい!! 昨日、家の娘から森の様子がおかしいと報告があった!! 詳しい内容は省くが、森で大量の魔物が出現している可能性がある!!」


 静寂に包まれていた広場は、ヴェルノの最後の言葉に反応して少しざわつく。

 勇樹も声には出さないが動揺している。


(マジで? 魔物って俺ユーリが襲われた奴みたいなのだよな?)


「騒ぐ気持ちはわかるが、最後まで聞いてくれ!! 村まで来るんじゃないかと心配かもしれんが、そのための対策を行うから大丈夫だ!! だが、万が一ということもある、だから事態が収まるまでは村から出ないようにしてほしい!!」


 村人の顔を見回しながら、乞うようにして発言するヴェルノ。その気持ちが伝わったのか、ざわついていた広場は徐々に静まっていった。

 そんな中、勇樹はふと疑問に思ったことがあった。


(こういう事って頻繁にあるわけじゃないのか? 確かにユーリの記憶にはないが……)


 そうなのだ。大量の魔物が来るかもしれないと言ったときに、実はその場にいたほぼすべての村人が動揺していたのだ。一部、偶々村にいたと思われる冒険者のような恰好の数人は動揺していなかったが。

 それについて考えた勇樹は、一つの仮説を立てる。


(それなのにリリカの報告だけで、危険が迫ってると直ぐに判断したヴェルノさんって……、、もしかして経験豊富な冒険者だったとかなのか?)


 そういえばと、ユーリの冒険者についての知識は、ほぼすべてヴェルノから聞いたものではなかったか? と考え付いた勇樹は、思わず頭を抱えた。その間もヴェルノの話は続いている。


(無理だ。経験豊富な人に適当な言い訳で、冒険者になるから村を出るって言っても認められるわけない)


 もともと勇樹は、ヴェルノに適当な理由で冒険者になるからと、村を出る旨を伝えるつもりだったが、それが困難な事に気付いて、大きく溜息をついた。もっとも、その理由すら思いついていなかったのだが。


「———伝えたいことは以上だ。何か質問はあるか? なければ解散して各自準備を行ってくれ」

「……は? 準備?」


 と、勇樹が考え込んでいる間にヴェルノの話が終わってしまった。当然、聞いていなかったので、勇樹は動き出す村人に取り残されるように、ポツンっと立ち尽くす。


 それに気づいたリリカが、呆れたように声をかけてくる。


「あんたねぇ、ちゃんと聞いてた? 見た感じ聞いてなかったみたいだけど……」

「……すまん、最初しか聞いてなかった。俺は何すればいいんだ?」


 まともに聞いてなかったために勇樹は、リリカに確認を取った。


「はぁ、ちゃんとしてよね。あんたは、父さんやあたし達と一緒に討伐に行くのよ。わかったらさっさと準備しなさい」

「………え、討…伐?」


 勇樹の不安は最悪な形で的中するのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。